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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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千六百八十九 玲緒奈編 「まともに生きることも」

二月十日。水曜日。晴れ。




沙奈子もあれから問題なく過ごせてる。決して頑健そうには見えない彼女だけど、不思議に風邪とかにはほとんど縁がない。もしかしたら、厳しい環境だったからこそ生き延びるために高い免疫力が付いたのかもしれない。


だけど、だからって『厳しい環境にすればいい』とは、僕は思わない。沙奈子が生き延びられたのは、本当にたまたまだと思う。何しろ、虫歯があっても歯科医にも連れて行ってもらえなかったんだから。


人間は、牙や爪を捨てる代わりに皆で集まって支え合って助け合って生き延びるという戦略を取った生き物なんだ。どれほど鍛えても、裸で自然に放り出されたらほとんどの場合は死ぬだろうな。そんな脆弱な生き物が自分を鍛えるとか、正直、自己満足以上の意味を感じないよ。


でもこれは、決して、自分を鍛えてる人を馬鹿にしてるんじゃないんだ。『自己満足』だっていいと思う。それを自分を高めることに活かせるなら。


けれど、それと同時に、驕り高ぶって他人を蔑ろにするような人になってしまったら、それも無意味な気がする。玲緒奈れおなが将来、スポーツとかを目指すようになったとしても、それで、鍛えてない人を見下すようにはなってほしくない。そんな人になるくらいなら、鍛えなくていい。


この世の中は、本当に、いろんな人がいて、その『いろんな人』がそれぞれに得意な分野で力を発揮するから成り立ってるんだ。僕のような人間が図面を起こしてそれを基に便利な道具が作られてたりもするんだ。


実は、以前の職場でも、僕が図面を起こした商品が大ヒットになったことがあった。


もちろん、僕はただ図面を担当しただけだけで商品そのものの開発に関わったわけじゃない。僕のアイデアが大ヒット商品になったわけじゃない。それでも、図面を起こす人がいなければその商品は世に出ることがなかったはずなんだ。


そういう形でこの世の中は成り立ってるんだよ。


僕は、沙奈子にも玲緒奈にも、それを分かっててほしいと思う。自分一人の力で生きてるんじゃないってことを、理解しててほしいと思う。子供にそれを教えられる親でいたいと思う。


皆で支え合って助け合ってきたからこそ、僕たちは、今、こうしていられるんだ。その事実から目を背けるような人間ではいたくないし、沙奈子や玲緒奈にもその事実から目を背けてほしくないんだ。


そういうことを分かっていてこそ、他人を敬える人になれるんじゃないかな。


特別な才能を持ってるわけでもない非力な僕たちは、他人を敬い支え合うことを忘れたら、まともに生きることもできなくなってしまうだろうな。



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