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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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千六百八十三 玲緒奈編 「力で抑え付けておけるのは」

二月四日。木曜日。晴れ。




「クルーズ船『エンジェルハイロゥ号』にて、新型コロナウイルスの集団感染が発生している模様です。このため、乗客らの上陸許可が下りず、船内での待機を強いられている状態です」


ニュースがそんなことを告げていた。これはもう本当に、日本にも上陸してくるって気がしてしまう。


もうここまでの間に、検疫をすり抜けてしまったのがいるんじゃないの?。ツアー客を乗せたバス運転手が感染してたみたいな例で見落とされてるのは、本当に他にないの?。


そんなことを考えながらも、僕は、とにかく平静さを保つように心掛けてた。ここで、建前上とは言え家長の立場にある僕がうろたえてたら、みんなが不安になると思う。


だから、『新型コロナウイルス感染症』の件については、それこそ成り行きを見守るしかない。


それよりも、沙奈子のことだ。


僕はあの子を守らなくちゃいけない。いずれは自分の足で立って生きることになるとしても、今はまだ、僕が扶養してて、僕の庇護下にあるんだから。


沙奈子は、確かに我慢強い子だ。彼女にとっては実の父親である僕の兄やその交際相手からの仕打ちにも耐え、たった一人で、顔も覚えてない叔父である僕のところに捨てられても、泣き喚くことさえなかった。


だけどそれは、彼女に無理を強いていい理由にはならない。だって、沙奈子が耐えられたのは、そうするしかなかったからだし。泣いたって喚いたってどうにもならないから、感情を殺してただけなんだから。


そうだ。彼女は感情を、心を、殺してきた。そうすることで耐えてきた。そうすることでしか耐えられなかった。そんな状態を、彼女に強いていいわけがない。何のために僕がいるのか、分からなくなる。


生まれて最初の出逢いは不幸なものだったかもしれない。


でも、だからってそのままにしておいていいわけがないんだ。沙奈子が我慢できてたのは、彼女が非力だったから。非力だったから反抗もできなかった。けれどそれも、成長と共に状況は変わっていく、玲那が、実の父親を包丁で刺してしまったように、非力なままじゃない。たとえ非力でも、『武器』を手にすれば力の差をひっくり返せることを、人間は気付くことができるんだ。


力で抑え付けておけるのは、『力の差』がある間だけ。そして『力の差』は、武器で簡単に埋めることができてしまう。


自分の腕をボールペンで手加減なく突くことができてしまう沙奈子が『武器』を手にして反撃することを思い付いてしまったら……。


僕は、彼女に、そんなことをする必要がない環境を用意する義務があるんだ。


親として。



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