千六百八十 玲緒奈編 「それこそ真面目にこなすだけ」
二月一日。月曜日、曇りのち雨。
連日、『新型コロナウイルス感染症』に関するニュースが続いてて、正直、逆に慣れてきてしまった気がする。政府も『新型コロナウイルス感染症対策本部』を立ち上げたことだし、僕たちがいくら心配したところで事態が好転するわけじゃないしね。
僕たちはただただ、自分たちの暮らしを淡々と営むだけだ。
沙奈子に対しても、玲緒奈に対しても、親である僕がうろたえてちゃ不安にさせるだけだろうしさ。
玲緒奈を膝に抱いて仕事をしながらも、僕は改めて自分に言い聞かせる。
『親子関係』だって、あくまでも『人間関係』の一つの姿に過ぎないんだってことを。
僕は、仕事を誠実にこなすことで今の会社からの信頼を得てる。そのおかげで、こうして在宅仕事もすんなりと認められたっていうのもあると思う。なにしろ、部外秘のデータをこうやって自宅で扱うわけだから、信頼してもらえてなければ、会社としても大変なリスクになるだろうし。
決して器用でなくても、要領が良くなくても、誠実であることで得られる信頼もある。こうやって玲緒奈をあやしながらでも、仕事そのものには影響を与えない。要求されたものを確実にこなす。
それができない人も、世の中には少なくないらしい。他人の目がないだけで手を抜いたり、いい加減なことをする人が。
大層なことができる才能は僕にはないかもしれないけど、こうやって、とにかく確実にこなそうとするのは、もしかしたらある種の『才能』なのかもしれないな。
だとしたら、それこそ真面目にこなすだけだ。僕にはそれしかできないんだから。
親としても、同じだっていう印象がある。
嘘を吐く人は信頼されるのかな。
約束を果たさない人は信頼されるのかな。
相手を見下す人は信頼されるのかな。
相手を嘲る人は信頼されるのかな。
相手を蔑ろにする人は信頼されるのかな。
自分はそういう人を信頼できるのかな。
僕にはできない。
だったら、親として、子供に対しても信頼されるように振る舞わなきゃおかしいはずなんだ。その親の振る舞いが、子供に対しての『手本』になるはずなんだ。赤ん坊は身近な人たちが話す言葉を聞いて学んで自分も言葉を覚える。それと同じで、他人との接し方も、周りの人たちの接し方から学んでいくはずなんだ。
他人を平気で傷付けられる人は、他人を平気で見下せる人は、他人を平気で嘲る人は、他人を平気で叩ける人は、どこの誰からそんな他人との接し方を学んだっていうの?。




