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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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千六百六十一 玲緒奈編 「言葉よりもっと複雑で難しい」

一月十三日。水曜日。晴れ。




昨日も、午前中だけとは言え僕がいなかったことで、玲緒奈れおなは不機嫌だったみたいだ。ウンチをしたから絵里奈がお尻を洗おうとしても、ミルクの時も、


「きぃえああああ~っ!」


って感じで思いっきりぐずってたって。


それは、絵里奈にとっては泣きたくなるくらいに『辛いこと』だった。だけど、実は、玲緒奈にとっても『泣きたくなるくらいに辛いこと』だったんだ。だから玲緒奈はその気持ちを全身全霊で表した。


だったら、親としては、その気持ちと向き合う必要があるんじゃないかな。少なくとも僕たちは、その必要があると思ってる。いくつもの『向き合わなかった結果』を見てきたから。


どんなに望んだって、我儘を言ったって、叶えられないことというのは世の中にはある。この時の玲緒奈にとっては、『パパの方がいいんじゃ~!』っていうのがまさにそれだったんだろうな。


『お尻を洗うのもミルクも、パパにしてもらいたい』


僕が傍にいない限り、それは決して叶わない。そして、僕がいつだって傍にいられるとは限らない。


この世というのは、そういうものなんだ。何でもかんでも自分の思い通りにはならない。嫌なこと、辛いことは、いつだって降りかかってくる。だったら、何もわざわざ意図的に『嫌な目』『辛い目』に遭わせる必要もないんじゃないのかな。こうやってどうしたって降りかかってくるそれがあるんだから。


「ごめんね、玲緒奈。パパは今、大事なご用事でお出掛けしてるの。今はママしかいないけど、大丈夫。パパは帰ってくるから。必ず帰ってくるから。それまでママと一緒に頑張ろう?」


変にあやそうとするんじゃなく、機嫌を取ろうとするんじゃなく、ただ誠実に、絵里奈はそう説明したそうだ。


もちろん、だからって今の玲緒奈にそれが理解できるわけはない。ないけど、そうやって丁寧に誠実に真摯に向き合う姿勢を見せるというのが大事なんだと僕たちは思ってる。これが、玲緒奈自身の『自分以外の誰かへの接し方』の基になるんだから。


一回や二回、それを見せたからってすぐに同じことができるわけじゃないことも分かってる。だって、こうして毎日話し掛けていたって、この子が実際に僕たちと普通に会話できるようになるには何年も掛かるんだ。『接し方』だって同じだよ。何度も何度も、本当に気が遠くなるほど何度もやって見せて、それでようやく、身に付いていくものだと思う。


たった一回や二回で同じことができないからって、


『子供なんて動物と同じだ』


なんて、拙速に過ぎるよ。言葉を話し始めるのだって一年くらい掛かる。ましてや普通に会話するとなったら数年掛かる。それを、言葉よりもっと複雑で難しい『他人との接し方』を習得するのに時間が掛かるのは当たり前じゃないか。



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