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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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千六百五十三 玲緒奈編 「玲緒奈自身を敬いたい」

一月五日。火曜日。晴れ。




今日から、『SANA』も僕も仕事も始まる。『新型肺炎』のことも気になるけど、まずは日々の暮らしだ。


「いってきます」


「いってらっしゃい」


「いってら~♡」


「いってらっしゃい」


玲緒奈を抱いた絵里奈と、仕事のためにばっちりメイクを決めた玲那と、まだ冬休み中の沙奈子に見送られ、リビングの階段のところに行く。そこで、三人と、『いってらっしゃいのキス』と『いってきますのキス』を交わした。絵里奈とは唇で、玲那と沙奈子からは左右の頬にもらってそれぞれの額に返す形で。


そう。いまもこの習慣は続いてる。照れくささとか面倒くささとか感じない、本当に何気ない毎日の習慣として。


義務感もないし、かと言って惰性という感じもない。ただそうしたいからしてるだけという。


以前、沙奈子に言ったことがあるんだ。


「恥ずかしくてやめたいとか思うようになったら、無理に続けなくていいよ」


って。そしたら彼女は、ちょっと寂しそうな表情になって、


「お父さんはもうやめたい……?」


と逆に聞かれて、


「あ、いやいや、そんなことないよ。沙奈子が僕のことを好きでいてくれてるのが分かるからすごく嬉しい。でもさ、ほら、沙奈子もそろそろ思春期ってのもあるかもだし……!」


みたいにみっともなく取り繕ってしまった。それが自分でも恥ずかしい。


でも、これで余計に感じたんだ。沙奈子はまだ実際の思春期に差し掛かってないんだろうな。って。彼女が実年齢相応の成長をしてるんじゃなく、僕のところに来てくれてからようやくちゃんとした成長が始まったんだろうなって。


だから、他の女の子と同じように思春期を迎えなくてもいい。他人より遅れててもいい。沙奈子は沙奈子のペースで成長してくれたらいい。普通じゃない境遇に生まれたこの子が『世間の当たり前』を踏襲できてなくても、むしろそれが当たり前なんだ。


この挨拶は、そんな沙奈子の成長具合を見るためのものでもある。そういう意味も、今では含んでる。


世間一般からは奇妙に見えても、千早ちはやちゃんも大希ひろきくんも結人ゆうとくんも、この習慣を知りつつそれを冷やかしたりしてこない。千早ちゃんたちは、ちゃんと、『他人を尊重する』ことができてるんだ。ちょっと自分の感覚とは合わないことがあると、まるで鬼の首でも取ったみたいに嘲笑うような人たちと違って。


僕はそれが嬉しい。


沙奈子も、千早ちゃんも、大希くんも、結人くんも、『他人を敬う』ということができてるんだ。結人くんの場合はまだまだ危なっかしい部分もありつつも。


玲緒奈れおなもそうなれるように、僕は玲緒奈自身を敬いたい。


彼女も一人の人間として、ね。



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