千六百五十二 玲緒奈編 「そんな理由で面倒を」
一月四日。月曜日。晴れ。
昨日、ニュースでやってた<新型肺炎>の話は、今日はなかった。
それについて、玲那が言う。
「ピカも言ってたけど、前にもさ、『SARS』とか『新型鳥インフルエンザ』とかもあったじゃん。でも、なんだかんだ騒ぎになってたけどしばらくしたら収まったし、今回も様子見って感じかなって思う」
僕も、
「うん。そうだね。用心に越したことはないけど、心配しすぎても大変だし、いつも通り気を付ける感じで」
と、気にしすぎないように、不安になりすぎないように、でも、当たり前の風邪やインフルエンザ対策は改めてしっかりしなくちゃね。
ところで、ここまで触れてこなかったけど、千早ちゃんと大希くんは、元旦から、
「あけましておめでとうございます!」
「おめでとうございます」
って元気に現れて、沙奈子と一緒にお雑煮を作ってくれたりしてた。しかも、波多野さんも一日と二日は和菓子屋が休みだそうで、結人くんと一緒にやってきた。千早ちゃんや玲那と連絡を取り合ってたらしい。
鷲崎さんと喜緑さんが二人きりになれる時間を作るためにね。
「織姫には幸せになってもらわなきゃ。パパちゃんが絵里奈に取られちゃったしさ」
『にしし♡』と悪戯っぽく笑いながら玲那が言う。
やれやれとは思いつつ、玲那の言いたいことも分かる気はする。鷲崎さんには、ぜひ、幸せになってほしい。同時に、結人くんにも幸せになってほしいんだ。だからこそ、喜緑さんとの距離感は大事だと思う。
喜緑さんはまだ社会人一年目だしね。仕事もしながら血の繋がらない結人くんの父親代わりをするのは大変に違いない。僕も、沙奈子の父親代わりは大変だった。危ういところでギリギリで持ち堪えられてただけだから、あとほんの少し、あれ以上の問題があっただけで破綻してた可能性が高かった印象はある。
なにも、わざわざそんな綱渡りをする必要はないと思うんだ。せっかく、力になれる可能性があるのにそれを無視して放っておく理由もない。僕たちに対して攻撃的な人でもないんだから。
波多野さんが結人くんを連れてうちに来るくらいのことはさ。
結人くんとしても、沙奈子に会えるのは、内心では嬉しいみたいだし。
ただ、それを周りが口にすると、彼としては反発せずにいられないみたいだね。このことも、分かっているならわざわざ神経を逆撫でする必要もないんじゃないかな。
回避できる厄介事の芽は回避するに越したことはないよ。ましてや、
『あいつが気遣われるのが気に入らない』
とか、そんな理由で面倒を起こす人の気が知れない。そんなことをしてたら余計に気遣ってもらえないと思うんだ。




