千六百四十一 玲緒奈編 「被害そのものは」
十二月二十四日。木曜日。曇り時々雨。
今日から沙奈子の学校も冬休み。
だから、沙奈子と千早ちゃんと大希くん、そして結人くんも一緒に三階で冬休みの宿題を一気に終わらせることになった。しかも今日は波多野さんもバイトが休みだから、
『鷲崎さんの代わりの結人くんの付き添いとして』
うちに来てる。
で、午前中にはもう、半分以上を終わらせて、残りはまた明日ということにして、動画を見たりゲームをしたりで遊んでる気配が。
それでも、そんなに騒々しい遊び方じゃないから、玲緒奈の睡眠の邪魔にもならない。ただ、千早ちゃんと波多野さんの声は、時々聞こえてくるな。二人とも、ノリが近くて声が大きいタイプだし。とは言え、気になるほどじゃない。ちゃんと気を遣ってくれてるのが分かる。
何より、波多野さんが落ち着いてる様子なのが伝わってくるのがいいな。お兄さんの件は、年明け早々に裁判が行われて、今度のが基本的には最終になって判決が確定するらしい。有罪判決が下るのは確実な情勢で、後はどの程度の量刑になるかってところみたいだ。
もっとも、犯情が酷い上に本人の態度も最悪で、裁判員の人が怒り出したりってことさえあったくらいだから、そういう面ではもう可能な限り厳しい量刑をっていうのが期待されてる状況らしいね。
その上で、今度のは裁判官だけで判断することになるから、実刑判決になるかどうかが争点の一つなんだって。
どんな判決が下るにしても、これで決着がついてくれればとは思うものの、被害者の女性もここまで傷付けられてきたわけだから、判決が出たからといって溜飲が下がるってものでもないだろうな。何より、被害そのものは消えてなくなったりしないわけで……。
だから犯罪というのは、起こさないようにするのが大事なんだとつくづく思う。玲那だって、加害者だった実の両親が亡くなっても彼女が受けた被害がそれで消えるわけでもなく、今でも彼女を苛んでいるから……。
たとえ犯罪とまではいかなくても、僕の家族の中から『加害者』を出すのは嫌だ。沙奈子や玲緒奈が誰かを傷付けたりするのは嫌だ。そんなことになるくらいなら、僕に当たってくれた方がいい。僕は沙奈子や玲緒奈の親なんだから。感情的になることがあっても、赤の他人に八つ当たりするのはやめてほしい。
その覚悟があるからこそ、僕は『親』になったんだ。
ところで、今日は、大希くんの誕生日でもある。
夕方から、うちの事務所で、クリスマスも兼ねたささやかなパーティーをすることになった。
と言っても、僕と絵里奈と玲緒奈は、ビデオ通話での参加だけどね。




