千六百三十一 玲緒奈編 「最初から幸せでいて」
十二月十四日。月曜日。曇り時々雨。
そろそろ本格的に寒くなってきた気がする。
僕と絵里奈は、本当に恵まれてると思う。家族である沙奈子や玲那の理解と協力だけじゃなく、千早ちゃんや大希くん、星谷さん、山仁さん、イチコさん、波多野さん、田上さん、鷲崎さん、結人くんたちの理解と協力も得られて、玲緒奈に集中できてるんだから。
こんなに恵まれた環境は、なかなかないんじゃないかな。
他人に話したら妬まれそうだ。
だけど僕たちが今の環境を手に入れられたのは、『そうなるように』してきたからだと思うんだ。そうなるようにしたからといって必ず手に入れられるとは限らないにしても、少なくとも、他人を傷付け苦しめて恨まれ疎まれってしてたらそれこそ手に入れられなかったっていう実感がある。
玲那も言ってたよ。
「私の実の両親は、おかしな方向で『商才』があったのか、普通の風俗店だけじゃなく『裏風俗店』まで経営して儲けてたけど、それで贅沢な生活してたけど、警察に目をつけられたらしいってなった途端、周りには誰もいなくなったよね。その後も表の風俗店は経営してたみたいだけどそれまでみたいには儲からなくて、借りてた高級マンションとかも引き払って自宅に戻って、まあ、慎ましい生活をしてた感じかな。
でも、家のベランダが傷んできてもその修理さえケチってそれで母親が転落して死んで、その葬式で私は事件を起こしちゃったんだ……
そこに来てたのも、風俗店の関係で関りがあった人たちだけだったって。しかも、しがらみがあるから仕方なくって感じで。
私に刺された後も、親身になってくれる人はほとんどいなくてさ。ネットで擁護してたのも、どこの誰だか分からない、うちの事情をまったく知らないいい加減な連中ばっかりでさ。結局、自分の憂さ晴らしのために私たちのことを利用してただけなんだよ。
で、実の父親は、癌が判明してもその時点で手遅れで、役所から派遣されたケースワーカーだけに見守られながら息を引き取ったって。
そんな人生になんの価値があるんだか、私には分かんない。今、私がこうしてられることに比べたらね。
私は、今、幸せだよ。ものすごく、ものすご~く遠回りさせられたけど、ようやく幸せになれた。あの人たちとは逆にね。それが答えだと思う」
僕と絵里奈の代わりに家のことをしながら、玲那はそう言ってくれてた。
「僕も玲那と同じだよ。両親と一緒にいた頃が人生で一番不幸だった。だけど今は本当に幸せなんだ。
玲緒奈には、最初から幸せでいてほしいよね」




