千六百二十一 玲緒奈編 「恩を押し売りされるのは」
十二月四日。金曜日。晴れ。
玲那は言う。
「世の中じゃさ、『言いたいことも言えないのとかおかしい』とか言うクセに、自分の正直な気持ちを語っただけで『お気持ち表明』とか言ってバカにするんだよ。『言いたいことを言えるのが正しい』んじゃないのかよ。
だから結局、『自分にだけ都合がいい』のが望みなんだよ。『自分が一番優遇されたい』『自分が一番救われたい』『自分が一番いい思いしたい』ってだけなんだよ。
で、『言いたいことも言えないのとかおかしい』とか言いつつ、他人が素直な気持ちを言葉にしたら『お気持ち表明』とか言ってバカにする。とにかく『自分が』『自分が』『自分が』なんだ。私の実の両親なんかその典型。自分だけがいい思いしたいから他人を道具としか思ってない。自分らの実の子供なんてそれこそ『自分達がいい思いをするための道具』だったんだ。
もし、子供の側が親を選べるんなら、誰があんな親の下に生まれたいと思うよ?。有り得ない。マジで有り得ない。『子供は親を選んで生まれてくる』とか本気で思うんなら、実の娘を変態に売り渡した金で自分らは贅沢するような親の下に生まれてみろってんだよ。
私はあんなやつらの下には生まれてなんてきたくなかった。あんな親の下に生まれちゃった子供本人がそう言ってるんだから、それが『答』じゃん。そんなのでなんで『生んでやった恩』があるとか言えんの?。『子供を生むのは一方的な親の勝手』。それが事実じゃん。そうやって一方的に勝手に生んだんだから、親が子供を育てるのは完璧に『義務』じゃん。
それでさ、パパちゃんと絵里奈は、ちゃ~んとその義務を果たそうとしてくれてる。『義務を果たしてる』っていうのはさ、ただそれをするってだけじゃなくて、単に義務を果たしてるだけなのを盾にして子供に恩を売ろうとか考えないってのも込みだと思うんだ。
私はさ、そんなことで恩を売ろうとしないパパちゃんと絵里奈だから、二人の子供でいたいと思えるんだ。二人の子供でいたいと思えるから、二人の力になりたいと思えるんだ。
恩を押し売りしてくるようなのに、恩を感じるとかできる?。できないってんなら、自分も恩を押し売りしちゃダメじゃん。
恩を押し売りされるのは嫌だけど、自分が誰かに恩を押し売りするのはいいとか考えてる親なんて、どうやって尊敬したらいいんだよ?。
意味分かんない」
そうやって『正直な気持ち』を吐露してくれる玲那は、本当にいい子だと思う。しかも、『自分とは縁もゆかりもないどこかの誰か』に対してじゃなく、僕や絵里奈に対して言ってくれるからいいんだ。
自分とは何の関係もない他人からそんなこと言われて嬉しい人なんて、そんなにはいないと思うからね。




