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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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百六十二 沙奈子編 「溌剌」

「こうやってフライパンを少し冷やさないと、ホットケーキがこげちゃうんだよ」


石生蔵いそくらさんが大希ひろきくんにそうやって解説してた。でもそれは、この前の日曜日に絵里奈から聞いたことだよな。そういうのを自慢するあたり、子供らしいなと思ってしまった。


ふと見ると、星谷ひかりたにさんもくすくすという感じで笑ってた。そうか、この子もこんな笑い方するんだ。そう思った瞬間、なんだかちょっとだけ親近感がわいた気がした。


そうこうしているうちに、一枚目をひっくり返す時が来た。でも今回も石生蔵さんがやるみたいだな。そして、えいやって感じで体全体を使ってホットケーキをひっくり返した。すると見事にフライパンの中に収まって成功したのだった。


「おーっ!」


大希くんが感心したように声を出し、石生蔵さんは自慢げに胸を張っていた。沙奈子はそれを嬉しそうに見守ってた。


こうしてみると、この三人は、普通にただの友達なんだなって感じた。石生蔵さんが大希くんのことが好きで気を引こうとしてたとか、あまりそこまでの印象が受けなかった。好きなのはきっとそうなんだと思うけど、何て言うか、大人みたいにドロドロした感じじゃない気がする。僕はそれに安心してた。


それよりは、どうも、星谷さんの大希くんに対する態度とか、大希くんを見る視線とかの方がよっぽど熱を帯びてる気がする。まさかとは思うけど、星谷さんは大希くんのことが、『恋愛として』好きなのかな?。いや、高校生と小学生だし、そんなわけはない…よね?。


だけどそんな僕の疑問は、三枚目のホットケーキを焼き上げて、また生地から作り始めた三人が、今度は大希くんにホットケーキをひっくり返す役目を任せた時にどこか確信めいたものになってしまったのだった。


だって、石生蔵さんの真似をするみたいに、えいやっと体全体でホットケーキをひっくり返した大希くんが成功した時の、


「やったあ!、すごい!、ヒロ坊くん!!」


という、それまでの落ち着いた雰囲気からの嘘みたいな変わりようと、その後のうっとりした感じで彼を見詰める様子が、どう見ても恋する女の子って感じだったから。


もし、星谷さんの大希くんへの気持ちが恋愛だったとしても、それは僕がどうこう言うことじゃないから、変に口出ししないでおこうと思った。もし沙奈子に何か悪影響が出るようなことならさすがに困るとしても、今のところは逆に、大希くんや石生蔵さんを守ってくれることで結果的に沙奈の子のことも守ってくれてる感じだし。


そんなこんなで六枚のホットケーキが焼けて、沙奈子たちはそれを二枚ずつ分けて食べることになった。


「おいし~!」


石生蔵さんが嬉しそうに声を上げると、大希くんも「おいし~!」って声を上げた。沙奈子もニコニコと笑いながら食べてた。


僕と星谷さんは、冷凍パスタを電子レンジで温めて食べた。こんなものでも星谷さんはちゃんと頭を下げて「ありがとうございます」って言ってくれた。彼女もすごくいい子なんだなって感じた。


そうして昼食が終わると、今度は星谷さんが持ってきてくれたケーキをデザートとして食べることになった。箱から出て来たそれを見ると、本当に僕がこれまで見たこともない上品で高級そうなケーキに思えた。こんなのいただいていいんだろうかって思った。


だけど星谷さんは包丁でパパッと切り分けて、みんなの前に並べていってくれた。その時の彼女の表情がまた嬉しそうで、星谷さん自身が喜んでそうしてるんだっていうのが分かった気がした。


「どうぞ」って言って僕の前に差し出してくれたその表情も、どこか満足そうだった気がする。


そんなこんなでみんなお腹いっぱいになって、大満足って感じだった。そしてその後、沙奈子が、莉奈や果奈を大希くんと石生蔵さんに紹介したりしてた。二人とも、子供からしたらそれこそすごく大きいと感じられると思う莉奈に驚いていた。しかもそれの手足を動かせることにさらに驚いて、見ていてちょっと心配になる感じで遊んでた。ああでも、子供だからこんな感じになるのは仕方ないよな。


莉奈にもしものことがあったとしても、絵里奈は恨んだりしないって言ってくれてるし、沙奈子みたいな小さな子に預けるっていうことはこういうことだよなと、僕は自分に言い聞かせた。


幸い、莉奈が壊れるようなことはなかったけど、少々ドレスが乱れて髪型が崩れてしまったのはご愛敬ってことなのかな。


次に沙奈子は、手作りの果奈の服を出してきてコタツの上に並べだした。


「すごーい!、これ全部、沙奈ちゃんが作ったの!?」


石生蔵さんが興奮したように聞いてくる。沙奈子が少し自慢そうに頷くと、


「沙奈ちゃん、人形の服屋さんになれるね!」


って言ってくれたのだった。それに大希くんも大きく頷いてた。そう言ってもらえたのがよっぽど嬉しかったのか、沙奈子はその後終始ニコニコ笑ってた。そして三人で、並べた服でお店屋さんごっこを始めて遊んでた。大希くんも、女の子と一緒に人形遊びに付き合ってくれるとか、すごいなと思った。


そんな感じできゃあきゃあ賑やかに遊んで、少し日が暮れ始めた頃に星谷さんが「そろそろ時間ですよ」って二人に声を掛けた。すると二人はちょっとだけ名残惜しそうにしながらも素直に「わかった」って応えて立ち上がった。


「本日は大変、お世話になりました」


星谷さんが丁寧に頭を下げてくれて、僕は逆に恐縮しながら、


「いえ、こちらこそあんな美味しいケーキをごちそうになって、ありがとうございます」


と頭を下げた。


「沙奈ちゃん、また明日、学校でね!」


「山下さん、またね」


石生蔵さんと大希くんもそれぞれそう挨拶してくれて、三人は帰っていったのだった。


部屋に戻ると、沙奈子はさっそく勉強を始めた。木曜日だから本当は別にしなくてもいいのにって思ってたけど、沙奈子が自分からやろうとしてるのを止める必要もないよな。もしかすると、どんどんできるようになってくるのが楽しいのかもしれない。勉強って、本来はこういうことなんだろうなっていうのを沙奈子が見せてくれてる気がした。


勉強が終わり、夕食の時間になっても正直、あまりお腹が減ってなかった。そこで、沙奈子用の冷凍のお惣菜を二人で分けて、ご飯と一緒に食べた。それで十分だった。


それから二人でお風呂に入ってゆったりして、お風呂の後はもう沙奈子を膝に座らせてのんびりと時間を過ごした。久しぶりにジグソーパズルを出してきた沙奈子が、ぱちぱちとリズムよくピースを置いていく音を聞いてるうちに、僕はうつらうつらとし始めてしまった。だからって完全に寝てしまうと夜に寝付けなくなってしまいそうだったから、睡魔と戦いながらもなんとか頑張ったのだった。


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