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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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千六百十四 玲緒奈編 「クマが取れてからでも」

十一月二十七日。金曜日。晴れ。




『沙奈子、愛してるよ』


僕がそう言うと、沙奈子はちょっと照れくさそうに微笑んでくれる。今では、たぶん、他人が見ても分かる笑顔になってきてると思う。


ただ、まったくの他人の前では、今でも表情は硬い。他人に対してはぜんぜん気を許してないのが分かる。


でも、だからって攻撃的なわけでもないんだ。単に、愛想よくできないというだけで。


その辺りは、結人ゆうとくんも同じだって。




実は今週は、沙奈子の学校ではテストがあって、お昼までに帰ってきてた。


だけど、いつも通りに千早ちはやちゃんと大希ひろきくんが一緒に帰ってきてて三階で過ごしてる。お昼は一階の厨房で自分たちで作って食べて、時々、笑い声やゲームをしてるらしい気配も伝わってくるけど、玲緒奈れおなが寝られないほどじゃないから助かってる。


すると、三階への階段の上から沙奈子が顔を覗かせて、


「掃除するけど、大丈夫?」


って聞いてきた。掃除の時はさすがに掃除機とかの音がするから、玲緒奈が寝てる時は避けてくれるんだ。


でもちょうど、おっぱいをしてる時だったから、


「ああ、今なら大丈夫」


僕は応えた。絵里奈も頷いてくれてる。


母乳の後は続けてミルクだからね。まだ時間はそれなりに掛かる。


「分かった」


そう言って沙奈子が三階に戻ってすぐ、掃除機の音が。


『掃除して』


とお願いしたわけでもないのに、当然のようにしてくれる。『そうしたい』って沙奈子たち自身が思ってくれてるんだ。そんな風に思ってもらえる家庭を築けてるんだって実感する。


もちろん、だからって掃除してくれなかったとしても責めたりしない。これは本来、大人である僕と絵里奈の役目なんだから。沙奈子たちがしなかったら僕と絵里奈がしてただけだ。


それを自分に言い聞かせる。沙奈子たちがしてくれることを『当たり前』とは思わない。そういう形で、


『育ててやってる恩を返してもらってる』


とは考えない。沙奈子も玲緒奈も僕と絵里奈の子供なんだ。育てるのは僕と絵里奈の義務であって、『育ててやってる』んじゃない。


だけど同時に、義務感だけで沙奈子や玲緒奈を育ててるわけでもないんだ。こうしてるのが嬉しいんだよ。楽しいんだ。僕にとっても。


沙奈子や玲緒奈と一緒に暮らしていること自体が楽しくて仕方ない。


『僕の子供でいてくれてありがとう』


って素直に思える。


だけど同時に、


「私も、そろそろちゃんと家のこともしないといけませんね」


絵里奈がそんなことを言い出した。


そんな絵里奈に僕は、


「育児休業を三ヶ月しかもらわなかった僕が言うのもなんだけど、別に急がなくていいと思う。もっとちゃんと、まとまって寝られるようになって、クマが取れてからでもいいんじゃないかな」


って、笑顔で言わせてもらったのだった。



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