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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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百六十一 沙奈子編 「来訪」

沙奈子の人形の服作りは、きちんと型紙を使うようになったからか、形もずいぶんとちゃんとしてきた気がする。どんどん完成度が上がってるのが分かる。


本当に、冗談抜きで仕事にできそうだなって思えてきた。ただその前に、沙奈子としては莉奈の服作りにも挑戦したいみたいだ。見れば、果奈の服のと比べて明らかに大きな型紙が用意されてた。いずれこれを使って莉奈の服を作るつもりなんだろう。でも今日はまだそうじゃなかった。明日は休日だから、久しぶりに一日ゆっくりしよう。そして僕たちは、10時を少し回ったところで寝たのだった。




木曜日の朝。今日は文化の日。別に寝坊してもいいのに平日と同じように目が覚めた。ただ、沙奈子はやっぱりちょっと寂しそうだった。普通にしてるように見えるけど、どこか物足りなさそうだった。僕はそれを見て、少し胸が痛むのを感じた。早く一緒に住めるようにしてあげたいと思った。


でもその前に、少しでも元気にしてあげればと思って言った。


「明日は、玲那れいなお姉ちゃんだけじゃなくて、絵里奈えりなお姉ちゃんも帰ってくるよ」


その瞬間、「え!?」と沙奈子が顔を上げた。


「本当!?」


もしかしたらこれまでで一番強い『本当!?』かもしれない。目をキラキラさせてコタツに手をついて体を乗り出してきていた。その様子に僕は思わず頬が緩んで、


「本当だよ」


って応えてた。


「だからもうちょっとの我慢だね」


そう言うと、「うん!」と大きく頷いて元気よくトーストを頬張り始めた。そんな姿も、以前のこの子からは想像もできないものだと思った。


他の人から見たらまだまだ大人しいように見えるかも知れない。引っ込み思案でオドオドしてるように見えるかも知れない。だけどこの子にもちゃんと力強い一面もあるんだ。必要な時にそれが見せられたら、普段いくら大人しそうに見えてもいいと思う。いっつもぐいぐいと前に出てくるばかりが元気ってものでもないよな。


こうして沙奈子のテンションが上がったところで、休みの日恒例の掃除と洗濯とご飯を炊く用意だ。そうして掃除をしてる時、沙奈子が急に「あっ!」って声を上げた。何事と思って見ると、僕を見上げて、


「そういえば今日、やまひとさんと、いそくらさんがあそびにくるって言ってた!」


だって。って、ええ!?。遊びにくるの?。そういうことは昨日のうちに言っておいてほしかったなあ。と考えてから、そういえば僕も昨日、学校で何があったとか聞くのを忘れてたのを思い出した。最近、石生蔵いそくらさんとも仲良くなれて学校での心配事がなくなったから、時々聞くのを忘れるんだよな。


それにわざわざ聞かなくても、何かちょっと嫌なことがあったとかしんどいとかってなると、沙奈子は全部顔に出るからすぐ分かるし。そういうのが無いということは問題なかったってことだし。


それにしても石生蔵さんだけじゃなくて大希ひろきくんも来てくれるんだ。本当にちゃんと友達なんだなあって思った。あれ?、でも何時くらいに来るんだろう?。そう思って聞いてみる。


「何時くらいに来るのかな?」


そうすると、


「お昼前って言ってた。またホットケーキ作りたいって。やまひとさんも一緒に」


な、なんですと!?。ああでも、まあ別に問題ないか。ただ、ふと、別のことも思い出す。そうだよ、大希くんと石生蔵さんが来るってことは、もしかしたら…。


「ねえ、沙奈子。もしかして星谷ひかりたにさんも来るのかな?」


その問い掛けには、頭をかしげた。そこは沙奈子も把握してないのか。だけど、


「おねえちゃんにも言うって言ってたから、くるかも」


とは言った。そうなるともう、星谷さんも来るって思っておいた方がいいな。


そんなこんなで時間も過ぎて、沙奈子の朝の勉強が終わって果奈の服作りをしてた時、玄関のチャイムが鳴らされた。「はーい」と返事をしながらドアスコープを覗くと、いた。あの、こっちを真っ直ぐに見詰めてくる強い目がそこにはあった。星谷さんだ。


「こんにちは。お休みのところ申し訳ありません」


玄関を開けた途端、丁寧な挨拶と深いお辞儀に、僕の方が恐縮してしまう。それを真似するみたいに大希くんと石生蔵さんも「こんにちは!」と大きな声でしっかりと頭を下げて挨拶してくれた。相変わらずなんだかすごいなって思ってしまった。


「どうぞ」と招き入れると、


「お邪魔いたします」とやっぱり丁寧に言ってくれて、大希くんと石生蔵さんも「おじゃまします!」と大きな声で言ってくれた。


「沙奈ちゃん、きたよ~」


部屋の中にいた沙奈子を見付けて石生蔵さんが手を振りながらぱたぱたと駆け寄る。大希くんもすぐ横に立った。玲那や絵里奈に対するみたいな甘える感じの表情とは違うけど、沙奈子も嬉しそうな顔をしてた。やっぱり玲那や絵里奈はこの子にとって甘えられるお姉ちゃんで、大希くんと石生蔵さんは対等な友達って感じなんだと思った。


そんな三人を見てると星谷さんが僕に買い物袋と30センチ四方くらいの箱を差し出して、


「こちら、ホットケーキの材料です。それとおやつもお持ちしました」


と言ってきたのだった。それを受け取って確認すると、買い物袋の方にはホットケーキミックスの外にも牛乳や卵まで入ってた。そして箱の方はと見ると、持ち手の部分が一部透明になっててそこから見えたのは明らかにケーキだった。それも何だか僕がこれまで見たことのない立派そうなケーキだ。いいのかな、こんなのもらって。


思わず戸惑いながらも、


「すいません、気を遣っていただいて」


とやけに丁寧な言い方になってしまった。10歳以上年下の高校生の女の子相手なのに。でも、まあ、別にいいか。態度が悪いよりはね。


「じゃあ、ホットケーキ作っていい?」


石生蔵さんがそわそわした感じで僕に聞いてくる。早く作りたくてうずうずしてるのかなって感じた。「いいよ」って返すと、さっそく沙奈子と一緒になってホットケーキを作る用意を始めた。大希くんも加わって、三人でやるのか。と思ったら、


「大希くんはボウル持って。私、卵割るから」


って感じで石生蔵さんが仕切り始めた。そうか、この三人だとこういう感じなんだと思った。それぞれの性格とか考えたらこの感じになるのかな。大希くん、男の子にしては物腰が柔らかくて、下手したら女の子にも見えるくらい優しい感じだもんな。沙奈子はそもそも前に出るタイプじゃないし。


さらによく見ると今回は大希くんと石生蔵さんメインでやるみたいだな。沙奈子はそれを見守る監督って感じだった。要所要所で声を掛けながら、三人で作業をこなしていく。


フライパンを火にかけて温めて、それを濡れタオルで少し冷ましてっていうのもしっかりやって、いよいよ生地を焼き始めたのだった。


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