千六百六 玲緒奈編 「他人との接し方を」
十一月十九日。木曜日。晴れ。
知り合ったばかりの頃の千早ちゃんの乱暴だったり攻撃的だったりした態度は、残念だけど、お母さんのそれを完全に真似たものだったと思う。
そのことを思うにつれ、
『人間は完璧じゃないんだな』
っていうのを実感する。
千早ちゃんのお母さんは、看護師としては優秀で、職場でも頼りにされてるらしい。星谷さんの話では、現場の看護師からも婦長以上に慕われてて、医師や医局が無茶な指示を出してきても、
「できないものはできないんです。患者を殺す気ですか!?」
きっぱりと啖呵を切ったりすることもあるって。
だけど、ひとたび家に帰って『母親』の立場になると、職場でのストレスを子供たちに当たり散らすことで転嫁する『毒親』と言われることもあるのに変わってしまうという。
それ自体も、千早ちゃんが大きく変わって家のことをほとんど全部してくれるようになってからはずいぶんとマシになったらしいけど、きつい言い方や態度は相変わらずなんだって。
そんな姿は、千早ちゃんの二人のお姉さんにも完全にうつってて、以前よりはマシになったと言っても、星谷さんや大希くんの影響を大きく受けた千早ちゃんに比べれば確実に乱暴なそれだと……。
ただ、そのこと自体、今では本人たちも自覚してるのか、必要以外のことはしゃべらないようにしてたりするとも。
千早ちゃんほどは、いい影響を与えてくれる人が周りにいないということなんだろうな。
いっそ、千早ちゃんと同じように星谷さんに甘えてくれたら違うのかもしれないけど、本人たちがそれを望んでないのにこちらから干渉すれば余計に心を閉ざすだけというのも分かるから、星谷さんも、目立った問題を起こさない限りは不干渉を貫くそうだ。
そういう諸々を参考にして、僕たちは玲緒奈と向き合っていく。
彼女は人間だ。犬とか猫とかじゃない。だから僕たちは、彼女をちゃんと人間として扱うし、接する。そうして、僕たちの接し方を学んでもらう。それが彼女の『他人との接し方』を作っていくんだ。
他人に対してきつい態度を取ったり乱暴な口の利き方をしたり。
リアルで他人に見せる『外面』だけじゃなく、ネットとかの匿名の陰に隠れた時に出る『裏の顔』についても、ね。




