千六百五 玲緒奈編 「その意味が腑に落ちたよ」
十一月十八日。水曜日。晴れ。
最近、やっと、二時間くらいはまとめて寝られるようになってきた。
玲緒奈もすごく元気だ。そして、僕たちをすごくよく見てる。
だから実感する。
子供が言葉を話せるようになるのはなぜ?。
赤ん坊相手に言葉の勉強を教えてるから?。
確かにそういうことをしてる人もいると思う。でも、実際には、勉強なんかしなくたって、話すようになるよね?。それはつまり、周りの人たちが話してるのを見て聞いてそうして学んでいってるからだよね?。赤ん坊自身が。
だとしたら、『態度』とか『振る舞い』とかも、学んでいるとは思わないの?。『他人への接し方』とかも。
僕は、実際にこうして、赤ん坊と、玲緒奈と接してみて、確信した。
玲緒奈は、僕や絵里奈や玲那の、『自分への接し方』や『他人への接し方』を、ものすごくよく見てるんだ。僕が笑顔で接してると穏やかな表情になるし、疲れたりしててちょっとしんどそうにしてると明らかに不安そうな表情をしてるのが分かる。
だから言ったんだ。
「やっぱり、赤ん坊は、言葉だけじゃないよね。周りの人たちから学び取ってることは。『態度』とか『振る舞い』とか『接し方』も学び取ってるのは間違いないよ」
それに対して絵里奈も、
「ああ、私もそれは思います。だから、玲緒奈がどういう風に他人と接するようになるかっていうのを考えると、乱暴な接し方とかはできないって思いました」
って。
さらに玲那も、
「だよね~。私も、子供の頃は、『自分より弱い相手には偉そうに横柄に乱暴な態度をするもんだ』って思ってたもん。でもまあ、私が弱かったから、いっつもビクビクしてただけだったけどさ。小学校の低学年の頃はさ。ただ、高学年くらいになってくると、正直、低学年の子らに対してはすんごい目で睨み付けてたこともあった気がする。今から思えばだけど。あの頃は自覚なかっただけで」
と。
すると絵里奈も、
「分かる。私も、下級生の子とか同級生のおとなしい子らに対しては割と横柄だった気がする。母親の私への態度そのものだったかもしれない」
とも。
こうして僕たちは、玲緒奈に、
『他人との接し方』
を学んでもらうためにも、丁寧で、穏やかに、彼女に接することを心掛けるようにしたんだ。
自分たちより弱い彼女に乱暴な言葉遣いをすれば、彼女も、自分より弱い相手には乱暴な接し方をするようになるかもしれない。それは嫌だ。
だとしたら、ここで、たとえ手間を掛けてでも、丁寧で穏やかな接し方をする。
山仁さんも言ってた。
「先にちゃんと手間を掛けると後が楽になるんだと、私は、一弧と大希から教わりました。逆に先に手を抜いて楽をして後で大変な思いをするのも、それぞれの親の選択だと思いますので、私のやり方を押し付けることもしませんが」
って。僕も自分がこうして赤ん坊と接してみて、その意味が腑に落ちたよ。




