千五百九十九 玲緒奈編 「窓を見てる」
十一月十二日。木曜日。晴れ。
最近、布団に横になってる玲緒奈が、窓の方をじっと見てることが多くなった。
ずっと同じ姿勢を続けてたら頭の形が歪になるかもと思った絵里奈が上を向かせても、すぐに窓の方に頭を向けるんだ。
「しょうがない。布団ごと向きを変えてあげようよ」
朝、玲那の提案で、布団ごと向きを変えるようにした。
それでもやっぱり、窓の方を見る。
だから『方向』なんじゃなくて、窓を見てるんだって分かる。
「窓の外がすごく明るいからでしょうか?」
絵里奈の問い掛けに、沙奈子が、
「そうかも……私も、小さかった頃、ずっと窓を見てたことがある……」
そんなことを言い出した。さらに、
「窓の外がすごく明るくて、そこには何があるんだろうって思ってた……。私の知らない何か『いいもの』があるんじゃないかって思ってたのを覚えてる……」
って……。
「沙奈子……」
「沙奈子ちゃん……」
そこに、玲那が、
「ああ、分かるよ。沙奈子ちゃんの言いたいことが分かる気がする。そう言えば私も、『お客』を取らされてた頃、待機室の窓をずっと見詰めてたことがあったな……。
うん、そうだ。窓の外には『自由』があるって思ってた気がする。その窓から飛び出したら、自由になれるかも。ってさ……。
まあでも、あれ、三階だったか四階だったかだと思うから、本当に飛び出してたらそれこそ『この世から自由に』なれてたかもね」
と……。
その上で、
「ああでも、そんなことしたら、下に誰かいて、巻き添えになってたかも。それ考えたら、飛ばなくて本当によかったと思う……。もっとも、あいつらもそれは気を付けてたみたいで、窓の前にスチール棚を置いて簡単には開けられないようにしてあったよ」
とも。
もちろん、玲緒奈が窓を見てるのは、沙奈子や玲那が感じてたそれとは違う理由だと思う。でも、外の光を取り込んで明るく輝くそれに対して強い興味を抱いてるのは確かかもしれない。
だからもう少ししたら、ベランダに出てみてもいいかもしれない。
もっとも、裏の家が近いから、そこから見える景色はあんまりいいものでもないけどね。だけど、ある程度は日の光も当るし、外の空気を吸うのもいいかも。今でもちょくちょく換気はしてるから、空気は悪くないと思うけどさ。
とにかく、沙奈子や玲那が感じていたような意味で『窓』を見る必要がないようにはしてあげなくちゃと心底思う。
そのために、沙奈子も玲那も協力してくれてる。僕たちは誰かを犠牲にして自分だけがいい思いをしたいとは考えない。
家族がみんな幸せじゃなきゃ、意味がないんだ。




