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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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千五百九十五 玲緒奈編 「自我が目覚めて」

十一月四日。水曜日。晴れ。




玲緒奈れおなが僕にばっかり懐いてしまっても、それは大した問題じゃないと思う。


単に『そういうこともある』というだけだと思うんだ。


それに、絵里奈がおっぱいをあげる時にはちゃんと落ち着いてるし、おっぱいだってしっかりと飲んでる。その上で、ミルクも飲むようになってくれた。


最初は変な顔して吐き出してた哺乳瓶の乳首も、口の中でもにょもにょと遊ぶようになって、そうしてるうちにミルクが出てくるのに気付いたみたいで、「んっご、んっご!」と飲むようになってくれたんだ。


だから、総じて見ればむしろ順調なんじゃないかな。


育児書とかネットの情報は、参考にはしてもそれを絶対だとは思わない。僕の前にいるのは他の誰でもない、玲緒奈なんだ。彼女をちゃんと見てればすごくたくさんのことが分かる。


玲緒奈は、決して、絵里奈や玲那のことを嫌ってるんじゃない。単に、僕の抱き方が一番、彼女の『好み』に合ってるだけだと思う。


でも、人間というのは、いつでもそう完全に割り切れるものじゃないのも事実。


自分もちゃんとあやせるようになろうと、絵里奈がおっぱいの後で玲緒奈を寝かしつけようとするんだけど、


「うぇええあああ~っ!!」


と、すごい声で玲緒奈は泣き叫んで、絵里奈も泣きそうな表情になる。自分が拒絶されてるような気がするんだろうな。


でも、そうじゃない。そうじゃないはずなんだ。


だって僕には、この時の玲緒奈の様子が、


「ちがうんじゃ、そうじゃないんじゃ!。これじゃうちはねられないんじゃ~!!」


って猛抗議してるみたいに見えて、むしろ、


『可愛い…♡』


と感じられてしまうんだ。決して絵里奈自身を拒絶してるんじゃないんだよ。










十一月五日。木曜日。晴れ。




僕にとってはただただ可愛いだけの玲緒奈の『駄々』も、絵里奈にとっては自分を否定されてるような気分になるらしかった。


だから僕は、下手に励ましたり慰めたりしない方がいいと感じて、


「絵里奈、愛してる……」


とだけ口にするようにした。


だけど、それは、絵里奈が一番欲してるものじゃないだろうなという印象はある。


絵里奈は、ただ、玲緒奈に認めてもらいたいんだ。それがなくちゃ僕がいくら慰めの言葉を口にしたって上滑りするだけだという予感がある。


もちろん、僕は絵里奈じゃないから、彼女が本当に求めているものが何なのかは、正確には分からない。このすれ違いが、やがて、『産後クライシス』っていうものに繋がっていくのかもしれない。


でも同時に、こうも思うんだ。


僕と絵里奈が『別の人間』であるように、絵里奈と玲緒奈も、『別の人間』なんだ。


『赤ん坊は母親を自分と同一視する。自分と母親を別の存在だと認識できない』


そんなことをどこかで見たか聞いたかした覚えがある。でもそれは、『いつまでも』てわけじゃないよね?。いずれ自分と母親が別々だってことに気付くよね。じゃあ、もしかしたら玲緒奈は、今まさに、『自分とこの人は別のもの』ってことに気付き始めてるってことじゃないかな。『自我』が目覚めてきてるってことじゃないのかな。


まだ生後一ヶ月ちょっとでそういうことがあるのかどうかは、僕には分からない。


でも、玲緒奈がこうして自己主張してるのは事実だと思う。


僕はその事実に向き合いたい。



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