千五百七十六 絵里奈編 「君はこんなにみんなに」
九月二十六日。土曜日。曇りのち雨。
今日は田上さんの誕生日。
そして、玲緒奈の誕生日にもなったな。
あの後、家に帰った僕と沙奈子と玲那は、三人で一緒にお風呂に入ってさっぱりして、早々に寝た。
お風呂を沸かしてる間にも沙奈子がうとうとし始めてたから、あんまり時間をかけるのもあれだと思って。
僕も玲那も、布団に横になった途端に落ちるみたいにして寝てしまった。
そして正午過ぎに目が覚めたら、沙奈子と玲那はまだぐっすり眠ってて。
正直、なんだか玲緒奈が生まれたことが夢みたいに実感がなかった。あの子を抱いた時の重みやあたたかさ、すーすーという落ち着いた息づかいもはっきり覚えてるのに、それ自体がものすごくリアルな夢だったんじゃないかって思ってしまうんだ。
だけど、夢じゃない。夢じゃない。玲緒奈は確かに生まれた。僕たちの家族に加わったんだ。
沙奈子と玲那が起きたら、改めてそれを確認しに行こう。
ああ、でもその前に、みんなに一斉でメッセージを送信しなきゃ。
『今日、午前二時三十五分、玲緒奈、無事に誕生しました。ありがとうございました』
すると、十秒くらいで、
『いやっほほほーい!。おめでとうございますっっっ!!』
ってメッセージが返ってきた。千早ちゃんだった。たぶん、今か今かと待ちかねてくれてたんだろうな。疲れ果てて頭も働いてなかったとはいえ、まだ深夜だったとはいえ、待たせてしまったみたいで申し訳なかった。
そして、続々と、
『おめでとうございます!』
『おめでとうございます』
『おめでと~♡』
『おめでとうございます』
田上さん、星谷さん、大希くん&イチコさん、鷲崎さんから返信が。
そのあたたかいメッセージに、胸が一杯になる。
加えて、
『カナは今、バイト中だから返事遅くなるかもです。ごめんなさい』
田上さんからの追伸。玲緒奈の誕生を祝いながらも、波多野さんへの気遣いも忘れない。もちろん僕も、すぐに返事がないからって気にしない。山仁さんからの返信がないのも、今は就寝中だからだって分かってる。
玲緒奈……、君はこんなにみんなに望まれて生まれてきたんだよ。僕や、沙奈子や、玲那と違ってさ……。
それをあの子がちゃんと実感できるように、僕は、あの子の『命そのもの』を敬いたい。あの子の命は、敬われるべきなんだ。
きっと、僕たちの都合なんてお構いなしで泣き叫んで一方的に要求を突き付けてくると思う。わがまま放題に振る舞うと思う。
だけど、それでいい。それでいいよ。君を勝手にこの世に送り出したのは僕と絵里奈なんだ。君が納得するまでいくらでもわがままを言ってくれたらいい。
その覚悟があるからこそ、僕は君を迎えることにしたんだから。
みんなからのメッセージが表示されたスマホを握り締めながらそんなことを考えてた僕に、いつの間にか目を覚ました沙奈子が、
「お父さん……」
ってすごく優しい笑顔で声を掛けてくれたのだった。




