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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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千五百七十五 絵里奈編 「今日のところは一旦」

それから三十分くらいして、ストレッチャーに寝かされた絵里奈が分娩室から出てきた。すると、汗を拭いてもらえたのか思ったよりさっぱりした様子で、


「パパ……」


って。


すごく疲れた感じの声と表情だったけど、それでもいつもの絵里奈に完全に戻ってた。


「ありがとう……」


僕はやっぱりそうとしか言えなくて、絵里奈も、


「うん……」


と小さく応えただけだった。だけどもうそれで十分だった。


そうして絵里奈は病室へと運ばれた。僕が抱いてた玲緒奈れおなも、


「それでは、お預かりします」


看護師さんが連れて行った。


本当はこのまま絵里奈と玲緒奈の傍にいたかったけど、いろいろあるそうなので面会はしばらくお預けになるみたいだ。それに何より、さすがに沙奈子も疲れた様子だったから、今日のところは一旦帰ることにした。


雨はもう上がってて、僕は自転車置き場に自転車を取りに行く。沙奈子も玲那も一緒に来て、


「沙奈子は、自転車に乗ってくれていいよ」


「うん……」


彼女が乗れるように、シートを下げた。沙奈子は割と小柄だからね。


そうやって沙奈子は僕の電動アシスト自転車にまたがったけど、足は地面につけて、そのまま地面を蹴る形で僕と玲那と一緒に帰る。


もう午前四時前。そろそろ『早朝』って言われる時間とはいえ、まだまだ真っ暗で、たまに新聞配達のバイクが通るくらいで人気もほとんどないから、沙奈子を一人で帰らせる気にはならなかった。髪の毛が肩まで伸びてて華奢な彼女は、暗がりでも『女の子』だって分かるからね。正直、波多野さんのお兄さんみたいな人がどこに潜んでるかも分からない以上、油断はしたくない。


実際、学校からのお知らせでも、最近、また痴漢が出たそうだし。


波多野さんのお兄さんが事件を起こして、世間から滅茶苦茶に攻撃されて家庭が崩壊して、そんなことになるのは分かってるはずなのに、痴漢なんかする人がいるというのが僕には不思議だった。つまり、


『自分だけは大丈夫。捕まらない』


みたいに思ってるんだろうな。って気がする。そんな風に考えてる人には、いくら罰を厳しくしても『抑止力』にはならないんだろうなって思うんだ。


だって、『自分だけは大丈夫。捕まらない』と考えてるんだったら、『自分が罰せられることはない』って考えてるのと同じだろうから。


その上で、もし、捕まって家族に迷惑が掛かっても、それを、


『ざまあみろ』


と考えるような人には、


『家族が苦しむこと自体が加害者への罰だ!』


なんて考え方も無意味どころか、むしろ加害者の狙い通りだよね。


まさに波多野さんのお兄さんが望んでたのがそれだから。


だから僕は、玲緒奈れおなが、


『お前らも苦しめばいい!』


みたいに思ってしまうような家庭にはしたくないんだ。



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