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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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千五百七十三 絵里奈編 「午前二時三十五分」

「あーっ!。うあーっっ!!」


赤ちゃんがもうほとんど出掛かっているのに、最後の一踏ん張りができない。力が入らない。


その様子をただ呆然と見ているしかできない僕に、医師が、


「今から私が、赤ちゃんを押し出します。よろしいですね?」


って聞いてきた。


『押し出す?。え?。どうやって……?』


正直、何がなんだか何を言ってるのかよく分かってなかったけど、


「分かりました」


って応えてた。そうとしか応えられなかった。僕には何もできないんだから。


すると、医師は、分娩台に上って絵里奈を跨いで膝を着いて、彼女のおなかに体重を掛けてぐーっと押した。


瞬間、


「ぎゃーっ!?」


だか、


「がーっっ!!」


だが、なんともいえない絶叫を絵里奈が上げて、


「出ました!」


絵里奈の脚の間で構えてた看護師さんが声を上げて、その手に何かを抱えて。


医師ははすばやく分娩台から降りてハサミやら何やら道具を手にしてちゃっちゃっと手際よく処置して。


そして……。


「ふやあ…、ふやあ……」


って、なんとも頼りない『声』が。


泣き声だった。赤ん坊の泣き声だ。イメージではもっとこう、


『おぎゃーっ!』


みたいに泣き叫ぶのかと思ってたら、子猫の鳴き声よりも小さい感じの……。


だけど、どんなに頼りなくても、それは、赤ん坊が自分で呼吸を始めたという何よりの証拠。命を持ってこの世界に出てきてくれたという何よりの証拠。


でも、本音を言うとこの時は、僕も、


『やっと終わったんだ……』


とか思ってしまっただけだった。感動で泣いてしまうとかじゃなくて、ただただホッとして……。


「三一五〇グラム。元気な女の子です」


医師がそう言いながら、赤ん坊を、絵里奈の胸にそっと乗せてくれた。


「……」


だけどこの時は絵里奈も、本当に、


『精も根も尽き果てた』


という様子で、ドラマとかでよくありそうな、笑顔で涙を流してって感じじゃなかった。極限状態の人間ってそんなに芝居がかったことができるとは限らないっていうのを改めて実感したな。


それでも僕は、絵里奈の手を掴んで、


「ありがとう……!」


って……。


もう、それしか言いようがなくて。すると絵里奈も、ようやく、


「…やりました……。私…、やったんですね……」


って、すごく疲れた様子だけど、ようやくいつもの彼女に戻った感じで……。


「午前二時三十五分。無事、出生です。おめでとうございます」


医師にそう言われると、やっと胸の奥に湧き上がってくるものが。


『生まれた……。生まれたんだな……。ありがとう、玲緒奈れおな……』


心の中でだけど、僕と絵里奈の子の名前を読んでた。


実は性別は早々に分かってたからね。名前は決めてたんだ。家族みんなで話し合って。



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