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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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千五百六十二 絵里奈編 「どこの誰かも分からない」

『絵里奈が産気づいたからとにかく急ぎたい』


僕も、そういう気持ちはある。本音では急ぎたいとも思う。だけど、そんな事情、他の人には何の関係もないよね。それで自転車をとばしてた僕に轢かれて亡くなったりしたら、轢かれた人の遺族は、


『奥さんが産気づいて急いでたから仕方ない』


って思ってくれる?。僕はそうは感じない。沙奈子や絵里奈や玲那がそんな理由で亡くなって納得できるわけがない。急いでる理由が『仕事』とか『誰かとの約束』とかでも同じだよ。


いつだったか、『待ち合わせの時間に遅れそうだから』ということで急いでて信号を見落として歩行者を死なせたって事故もあったんじゃなかったかな。『待ち合わせの時間に遅れそうだから』で轢き殺されて、遺族はどう感じるの?。


それこそ相手を『殺してやりたい!』って思うだろうな。


だから僕は、急いでいるけど無理はしない。僕の都合で他人を不幸にしたいとは思わない。事故なんか起こせば、自分の家族も不幸になる。


その当たり前のことを心掛けてるだけなんだ。


それからも、右折の自動車を避けるために歩道に乗り上げて強引にすり抜けた自動車とか、横断歩道を歩行者が通っているのにその間を強引に突っ切った自動車とかも目撃しつつ、それかと思うと、傘とスマホを一緒に持ってまるで曲芸のように自転車を運転している四十代くらいの男性を目撃しつつ、僕は自分を落ち着かせることを心掛けて病院を目指した。


途中、赤信号で止まってスマホを確認すると、


『今、子宮口八センチくらいだって。この調子だと実際の出産は夜遅くになりそう。だから慌てなくていいよ』


玲那からのメッセージが。


『だったら、一旦、家に帰って着替えたりしてから行こうかな』


そんな風にも思えた。だけどその僕の横を、やっぱり傘を差して、しかも子供を乗せて自転車を運転してる女性が赤信号を突っ切っていった。子供の前で傘差し運転をして信号を無視したんだ。そうして交差点の先にあったコンビニの駐輪場に自転車を止めたから、『子供が高熱を出したから急いで病院に連れていった』とかいうのでもないのは確かだろうな。


それがすごく情けない。


ここでもし、僕が、


『子供の前でそんな運転してて恥ずかしくないんですか!?』


とか注意しても、その女性は反省なんかしないと思う。それどころか、


『変な奴に絡まれた!』


って感じで自分を被害者のように書いて、ネットに上げたりするかもしれない。


だって僕は、その女性からすればそれこそどこの誰かも分からない『怪しい男』だからね。



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