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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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千五百四十四 絵里奈編 「それとどう向き合っていくか」

九月八日。火曜日。晴れ。




「シャワー浴びますね、パパ」


そう言って絵里奈が、大儀そうに大きなお腹を抱えつつ立ち上がって、シャワー室に入っていった。


ゆっくりお風呂に浸かりたいっていう気持ちもありつつ、お風呂に入るのも正直大変っていうのもあるそうで、まあ、しばらくの辛抱ということで納得してるらしい。


その一方で、お腹が大きくなるにつれて腰痛が始まり、ここしばらくはけっこう辛いみたいだ。だから僕も、絵里奈のマッサージをする。


すると、玲那と沙奈子も、それぞれ足とか手のマッサージを一緒にしてくれるんだ。


だから今日も、シャワーから出てきた絵里奈に横になってもらって、マッサージをした。


「ごめんなさい、パパ。パパも仕事で疲れてるのに、こんな……」


さすがに僕のことを『パパ』と呼ぶのにも慣れたらしい絵里奈が申し訳なさそうに言う。


「何言ってるんだよ。僕の赤ん坊を育ててもらってるんだ。このくらいしかお返しできない僕の方が『ごめんなさい』だって」


それは正直な気持ち。どっちが養ってやってるとか、どっちが偉いとか、どっちがより大変とか、そんなくだらないことでいがみ合ってたらこんな気持ちにはなれないかもしれないけど、僕たちはそうじゃない。


『どっちが養ってやってるか』


『どっちが偉いか』


『どっちがより大変か』


なんて、それってつまり、


『自分をもっと認めてほしい!』


っていうのがどっちも強いってことなんじゃないの?。しかも、相手より自分の方がより認めてほしいっていうさ。


だけど、僕たちは違う。僕たちはただ、相手のことを認めたい、一人の人として敬いたい、そう思えるから一緒にいられる。っていうだけだからね。どっちが養ってるか、どっちが偉いか、どっちが大変か、なんてどうでもいいんだ。


ただ、僕が愛してる絵里奈が大変そうだから、僕はそれを労いたいと思ってるだけなんだよ。


『結婚は人生の墓場』


だとか、


『結婚はただただ我慢を続けるだけ』


だとか、そういう結婚生活しかできない相手を選んだ人が何を言ってても関係ない。僕は、幸せになれるのが分かったから絵里奈を選んだ。それだけのことだよ。僕にとって大切な絵里奈が腰痛で辛いなら、それを少しでも和らげてあげたい。


それだけのことなんだ。


そしてそれは、玲那も沙奈子も同じ。大切な絵里奈が辛そうにしてるから力になりたいだけ。


家族の誰かが辛そうにしてたら放ってはおかない。


そういう家族になれるのが分かったから、僕たちは家族になった。


沙奈子が抱えてる『仄暗い感情』も承知の上で。玲那が抱えてる『激しい恨み』も承知の上で。


純粋で綺麗なだけの人間なんて滅多にいない。誰もが心に『危険なもの』を隠してる。


大事なのは、それとどう向き合っていくか、付き合っていくかなんだ。



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