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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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千五百三十四 絵里奈編 「僕たちがそれを癒すんだ」

八月二十九日。土曜日。晴れ時々雨。




なんてことがあって、だけどそのおかげでまた一層、家族の関係が深まったような気がして、僕は嬉しくて仕方なかった。


沙奈子も、すごく嬉しそうだ。


ドレスのデザインのアイデアはまだ大丈夫みたいで、今日は家でゆっくりする。


一階の三畳の部屋で。


と言っても、裏も明け放って、玲那はそこでタブレットでアニメを見てるから、実質、六畳くらいの広さには感じるけどね。


絵里奈は三畳の部屋で座椅子に座って。


沙奈子も、座椅子に座った僕の膝に座って、ドレス作りに集中してる。


千早ちはやちゃんが、


『ドレス作りに集中してる沙奈は綺麗だ』


って言ってくれたのがなんだかすごく実感できる気もする。なにしろ『凄み』を感じるくらいの集中力を発揮して、キリッと引き締まった表情で、黙々とドレスを作り上げていくんだ。


あのアパートに来たばかりの頃の、覇気のない、しかも僕が動く度にビクッと体を竦ませて怯えた目を向けていたこの子はもういない。


今はまだまだ自覚も十分じゃないとしても、一企業『SANA』の屋台骨を支える『職人』として大人に負けない働きをしてることで、自分の力を実感してきてるんだろうな。


そしてそれが同時に、『自分を虐げてきた大人への反抗心』も育ててるのをすごく感じる。


親である僕がその事実に目を瞑って、


『頑張ってるからいい』


と油断して放っておけば、この子は、自分の立場を笠に着て『パワハラ』みたいなことをする人になってしまうかもしれない。


『この子に限ってそんなことあるわけない』


みたいなのは、本当に危険だと思う。


『辛い境遇で育った子がみんな犯罪者になるわけじゃない』って言う人もいるけど、それは結局、『そうならないように導いてくれた何か』があったからだと、沙奈子を見てると実感する。


彼女の実の両親を含めた周囲の大人たちが彼女の中に植え付けた『仄暗い感情』は、間違いなく育ってきてる。僕たちがそれとどう向き合えばいいかを、自分の中のそういう感情とどう付き合っていけばいいかを彼女に教えてあげないと、沙奈子はいつか誰かを傷付けるっていう予感しかない。


そのためにも、世の中には沙奈子を虐げようとする大人ばかりじゃないって実感を持たせてあげないといけない。その上で、


『どんな理由があっても他人を傷付けようとするのは良くないことだ』


って分かってもらわないといけない。


でも、ただそうやって我慢を強いるだけじゃ、納得してくれる人は少ないのも分かってる。


『泣き寝入りしろって言うのかよ!?』


みたいなことを言う人も多いと思う。


だから彼女が嫌な思いをした時なんかは、僕たちがそれを癒すんだ。


家族でお互いに、癒し合うんだ。


それができると思うからこそ、僕たちは『家族』をやっていられるんだ。



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