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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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千五百三十 絵里奈編 「一緒にそれを見付けていく」

八月二十五日。火曜日。晴れ。




千早ちはやちゃんや結人ゆうとくんは、分かりやすく暴力に頼ってしまう、暴力でこそ問題が解決できると信じてしまう時期は通り過ぎることができた。


それを思えば、危険は減っている実感がある。


でも、逆に、沙奈子については、これからが危険なんだろうなって感じるんだ。


他人の目には、おとなしくて、大人の言うことには素直に従う彼女は、とても『いい子』に見えると思う。


だけど違うんだ。そうじゃないんだ。それは彼女の表面部分だけで、彼女の本質は、千早ちゃんや結人くんにも劣らないくらいに危険なものをはらんでるのを、僕は知っている。


大人の力の前には何もできないことを理解してたこれまでは、彼女は大人の暴力に怯えるだけだった。体が竦んで何もできなかった。だから彼女の『攻撃性』は、自分自身に向かったんだと思う。


自分自身なら、反撃されないからね。


けれど、中学二年になり、体も少し成長して、そして何より、


『自分の力で、もう、百万円を大きく超える蓄えを作った』


ことで、彼女は自分が大人に虐げられているだけの非力な子供じゃなくなりつつあるのを感じてるんだろうな。


それが彼女の『仄暗い感情』を育ててるんじゃないかな。


『自分を虐げてきた大人』への復讐が可能になってきてるってことで。


そんな沙奈子を、表面的な『いい子』の部分だけを見て安心して、


『この子がそんなことをするわけない』


って軽く考えてたら、彼女の中にあるものを見過ごしてたら、沙奈子は、悪意なく、


『自分がされたことを、やられたことを、ただやり返してるだけ』


みたいな感じで他人を虐げるような人になってしまう可能性は決して低くないと思うんだ。


そのためにも僕と絵里奈は、『そんな大人ばかりじゃない』っていうことを、自分自身の振る舞いで示していかなきゃいけない。それが僕と絵里奈の、


『親としての責任』


だと思う。


学校では、そこまでできないよ。だって学校は、沙奈子がどんな目に遭ってきたのかを、皮膚感覚で知らないからね。


沙奈子の体には、今でも、煙草の火を押し付けられたらしい痕が残ってる。それが完全には消えてしまわないのと同じで、彼女の『大人への憎しみ』は、一生、消えることはないと思う。やった方は忘れても、やられた方は忘れられないしね。


だから沙奈子のことをよく見て、普段の彼女を知って、他人には見せない表情とかも知って、その上で、自分の過去とどう付き合っていくかを教えられるのは……。いや、『教える』っていうのとはちょっと違うかな。


『一緒にそれを見付けていく』


のは、親である僕と絵里奈にしかできないんだと思うし、親である僕と絵里奈にこそ、その責任があると思うんだ。



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