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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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千五百二十六 絵里奈編 「生まれてきたことを」

八月二十一日。金曜日。晴れ。




昨日、それからもイチコさんは続けた。


「私も大希ひろきもさ、お父さんに守られてるって、大切にされてるって、実感があったんだよ。大希だって、お父さんが仕事してるのに構ってもらおうとして絡んでいって、世間ではそういう時、『仕事中だから我慢しろ!』みたいに言うらしいけど、お父さんは、締め切りが厳しいとかのよっぽどの時以外は、大希がある程度満足するまで相手してくれてたんだ」


すると、それを受けて大希くんが、


「実は、今でも時々、お父さんには絡んでいくんだ。なんか無性にそうしたくなる時があってさ。それでもお父さんは、ちゃんと僕に構ってくれるんだよ。そしたら僕も、気持ちが落ち着くんだ」


だって。そしてまたイチコさんが、


「これだけちゃんと私たちのことを見てくれてる実感があるのに、どうして反抗しなきゃならないの?って思うんだよね。不満があったらケンカ腰になるんじゃなくてちゃんと話し掛けたらそれでお父さんも丁寧に聞いてくれるんだよ。これでなんで?って話だよね」


イチコさんや大希くんの語るそれは、まさに僕が沙奈子に対してやろうとしてきたことだった。世間が言う『常識』じゃなく、沙奈子自身を見て、彼女にとって必要な対応をしようとしてきたんだ。


彼女をずっと膝に据わらせるのも、一緒にお風呂に入ってきたのも、おねしょを無理に治そうとしなかったのも、沙奈子にとって必要なそれだった。その内容がイチコさんや大希くんに対して山仁やまひとさんがしたことと同じだったのは意外だけど、たぶん、それはたまたまだと思う。たまたまこの二つの事例で同じような対応がされてきたからって、効果があったからって、それが必ず全ての事例で同じ効果を見せるとは限らない。


一緒にお風呂に入れたのは、僕も山仁さんも、沙奈子やイチコさんのことを、性的な目で見ることがなかったからだろうな。もし、そんな目で見てたら、それを悟られて拒絶されてた気がする。もっとも、拒絶されたら、一緒に入ろうとするのは逆効果だと判断して、入らないようにしてたと思うけど。


そう。大事なのは、本人を見ること。そして普段からちゃんと言葉を交わして、本人が何を望んでいるのかを、把握すること。それをせずに、『こうすれば万事上手くいく』と思い込んで自分のやり方を一方的に押し付けるからかえって問題を拗らせるんだと思う。


だから、沙奈子に対してしたやり方が、そのまま、生まれてくる子に通じるわけじゃないということでもあるんだろうな。


僕も絵里奈も、何度でもそのことを話し合う。


生まれてくる子に、生まれてきたことを後悔してほしくないから。



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