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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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千五百二十一 絵里奈編 「相手の属性とかそういうのは」

八月十六日。日曜日。晴れ。




絵里奈は、結婚してからでも、僕に対しては丁寧語のままだった。実は絵里奈自身、元々、他人との距離感というものを掴むのはあまり得意な方じゃないんだ。


だから、出逢って早々にフランクな喋り方に切り替えることに失敗すると、もうずっとそのままになってしまうという。


いたるさんに対しては、なんて言うか、『壁』というのとは違うんですけど、こう、『尊敬してる相手にタメ口はちょっと』みたいなのはあったと思います。香保理かほりや玲那とは、すぐに友達感覚になれたんですけどね」


大きなお腹を抱えて苦笑いを浮かべながら、絵里奈が言った。


千早ちはやちゃんの、


「絵里奈さんって、すっごく丁寧に喋りますよね。山下さんに対しても」


という何気ない言葉に応えてのものだった。


すると、鷲崎わしざきさんが、


「あ~、なんとなく分かる気がします。私もくだけた話し方ができる相手って、割と最初のうちに気軽に話せるようになるんですよね。でも、こう、尊敬してる相手だと自然と丁寧になっちゃうって言うか。先輩のこともそうなんです」


だって。


二人にそんな風に言われて、僕はすごく気恥ずかしくなってしまった。


「そう言ってもらえるのはありがたいけど、僕は自分が立派な人間じゃないって分かってるから、なんとも面映ゆいな」


正直な気持ちを口にする。


すると絵里奈は、


「いいんですよ。これは私の問題ないんです。いたるさんはいたるさんのままでいてもらえたらいいです。こんな風に喋ってても、私はいたるさんのことをすごく近くに感じています。他人から見たら余所余所しく思えるかもしれませんけど、私の実感は違うんです」


とのことだった。


絵里奈が僕に必要以上に遠慮してるわけじゃないのは、僕も分かってた。僕に対する丁寧な話し方は彼女の『クセ』でしかなくて、僕との間に距離を感じてるわけじゃないのも、僕の実感なんだ。


そこに玲那が、


「私がお父さんにこんな話し方をするのも、お父さんがお父さんだからだよ。他の男の人には正直、無理」


って。


僕たちは、自分が思ってる『こうであるべき』みたいなのを、相手に押し付けることはしないようにしてる。絵里奈が他人行儀な話し方をしてるように見えても、『それはおかしい』とは言わない。


それに何より、彼女が本当に他人行儀なわけじゃないのは、僕にも伝わってる。彼女が僕に心を許してくれてるのはすごく感じてるしさ。


だって彼女は、今でも、男性は苦手だからね。なのに僕のことは求めてくれて、こうして子供までできたんだ。それが何よりの証拠だと思う。


世間一般に思われてる『こうあるべき』というのは、僕たちの間ではあまり意味がない。


僕たちは、ただ、相手を見るようにしてるんだ。


相手の属性とかそういうのは関係なく、ね。



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