千五百十五 絵里奈編 「夏バテした覚えがないですね」
八月十日。月曜日。晴れ。
暑い。ものすごく暑い。
今日は最高気温が三十七度だって。この夏一番の暑さだそうだ。
だから当然、熱中症には注意する。
だけど、熱中症も心配だけど、不思議と、僕たちの間では『夏バテ』というのを聞くことがない。例年、誰も夏バテしないんだ。
「そう言えば私は、香保理と出逢ってから夏バテした覚えがないですね」
絵里奈が言う。
するとそれを受けて玲那も、
「言われてみたら私も絵里奈や香保理に出逢ってから夏バテってやってないかも」
だって。
さらには、田上さんが、
「あ~、そう言や私もここ何年か夏バテしてないかも。前は毎年、酷い夏バテしてたと思うんだけどな」
不思議がってた。
そこに鷲崎さんが、
「逆に私は、夏バテって経験した覚えがないんです。夏はあんまり得意じゃないはずなんですけど。ただ、夏バテはしたことない代わりに『あせも』がひどくて」
自分の胸に手をやって応えた後で、ハッと手を下げて顔を真っ赤にした。それで、大希くん以外はピンときたらしい。
『ま~、確かに汗とかたまりそうだもんね……』
って。
僕も何となく察してしまったけど、もちろん口にはしなかった。
そういうのを冷やかすのはなんか違う気がするし。
それより夏バテの話に戻すと、僕と沙奈子も夏バテらしい夏バテをした覚えがないな。
さらに、
「私も最近はないかな~」
と千早ちゃん。
「私は鷲崎さんと同じで夏バテの経験がないですね」
「僕も」
とは、イチコさんと大希くん。
そして、
「私も、夏バテというものを経験した覚えがありません」
星谷さんが。
こうしてみんなの発言を受けて、絵里奈が、
「結局、ちゃんと食事をとってしっかりと睡眠を取るのが夏バテ予防には一番ってことなんでしょうね。だってみんな、ちゃんと食べてちゃんと寝てってしてますもんね」
言うと、
「確かに…! イチコと出逢ってからは、なんかちゃんと寝られるようになったのはある」
田上さんがハッとした様子で声を上げた。
「なるほど、そうかも。私もヒロ坊も、ちゃんと食べてちゃんと寝てっていうのは自信があるし」
とイチコさん。
「言われてみたら私もですね」
「私もです」
鷲崎さんと星谷さん。
「な~る。私も自分で作るようになってからはまともなものちゃんと食べて、夜もぐっすり寝られてるわ」
と千早ちゃん。彼女の場合は、かなり切実な話のはずだけど、敢えてこの場ではそれ以上触れなかった。
また、この間、結人くんは何も言わなかったけど、不満とか不服とかを感じさせる様子じゃなかったから、これといって納得いかない話じゃなかったんだろうな。
僕も、沙奈子と一緒に暮らし始めてから、食事には気を付けるようになったし、彼女と一緒に早々に寝るようになったから、睡眠不足とはほとんど縁がなくなったのは確かなんだよね。




