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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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百五十一 沙奈子編 「暴露」

石生蔵いそくらさんが作ったホットケーキは、初めてとは思えないくらい上手に作れてた。でもさすがに三枚だけじゃこの人数には行き渡らない。だから沙奈子と石生蔵さんは、もう一度、ホットケーキを作り始めた。


そっちも上手に作れて、石生蔵さんはすごく自慢げな顔をしてた。


「お姉ちゃん、私、上手に作れた?」


星谷さんに向かってそう尋ねる姿も、沙奈子と何も変わらない気がした。そうだよ、子供って、こんな顔して笑えるんだ。石生蔵さんだってそれは同じなんだ。


自分たちで作ったホットケーキを、沙奈子と石生蔵さんは食べた。そして星谷さんも石生蔵さんから受け取って食べた。


「おいしい?」と聞かれ、星谷さんも笑顔で「美味しい」と応えてた。


僕たちの分は、山田さんが作ってくれた。さすがに手慣れた感じであっという間に一人二枚ずつ、三人分のホットケーキを作ってしまった。でも沙奈子だって、そう遠くないうちにこんな感じで作れるようになる気がする。そして、もし、大人になって子供が出来たら、子供たちのためにホットケーキを焼くんだろうな、子供たちと一緒に楽しそうにホットケーキを作るんだろうなって思った。すると、夢の中に出て来た大人になった沙奈子の姿が、沙奈子そっくりな子供と一緒にホットケーキを焼く姿が見えた気がした。


彼女ならきっと、その通りになれると思う。彼女がその通りになれるように、僕は彼女を守っていきたいと改めて思った。


そうして沙奈子と石生蔵さんのホットケーキ作りは、無事に終わったのだった。すると、星谷さんが改まった感じで言った。


「私はこれから大希ひろきくんの家庭教師に行きますので、これで失礼いたします。この度はこのような機会をいただき、本当にありがとうございました」


深々と頭を下げる星谷さんの真似をするように石生蔵さんも頭を下げた。そして、


「ありがとうございました!」


と大きな声で言った。


帰っていく二人を、沙奈子は玄関から見送った。なんだか夢でも見てるみたいな時間だったなって僕は思った。二人の姿が見えなくなってようやく沙奈子は部屋に戻って、四人で改めて寛いだ。それから沙奈子は午後の勉強をして、その後、また四人で買い物に行くことになった。


のんびりと歩いていつものスーパーに向かうと、やっぱり沙奈子は山田さんと一緒に、僕は伊藤さんと一緒に歩く感じになった。伊藤さんは前を歩く沙奈子と山田さんを見て、本当にしみじみって感じで言ってきた。


「こういうのを、幸せって言うんでしょうね」


それについては僕も全く異論はなかった。これが幸せでなかったら何だっていう感じだ。特に何か会話は無くても、ただこうして四人で一緒にいられるだけで僕も満たされる気がした。


スーパーに着いたらホットケーキミックスとかマーガリンとか牛乳とか冷凍食品を買い込んで、一階の生活用品売り場で石鹸とか洗剤とかも買った。そして今日は、沙奈子の為のおむつも買っていくことにした。もう、四人で住むことも本格的に考え始めたんだから、ちゃんと言っておかなきゃいけないと思った。


「それはもしかして、沙奈子ちゃんのですか…?」


ビッグよりも大きいサイズというパンツタイプのおむつを手にした僕に、山田さんが顔を寄せて囁くように聞いてきた。僕は黙って頷いて、


「帰ってから改めて話すよ」


と言った。伊藤さんと山田さんは、少し戸惑ったような顔をしていた。でもすぐ、二人で顔を見合わせて、何か納得したみたいに頷いてるのも見えた。


帰る途中、伊藤さんが聞いてきた。


「沙奈子ちゃん、おねしょするんですか?」


帰ってから話すとは言ったけど、そこまで見抜かれてるならもったいぶっても仕方ないと思って、僕は黙って頷いた。すると伊藤さんは静かに話し出した。


「やっぱり…。そういうのあるんじゃないかって思ってたんです。沙奈子ちゃん、辛かったんですね…」


伊藤さんはそう言ってたけど、きっかけはちょっと複雑かな。その辺りについては帰ってからちゃんと話そうと思った。


部屋に戻って買ったものを整理して、僕と沙奈子は、伊藤さんと山田さんに向き合って座った。真面目な顔になってる二人に対して、沙奈子の頭を撫でながら僕は、二人に向かって話し出した。


「二人が気付いたとおり、沙奈子は今でもおねしょをするんだ。でもそれは、実は僕のところに来てから始まったことなんだよ。病院で検査もしてもらったけど、体には何も異常はなかった。精神的なものだろうってことだったんだ。だけど、精神的なものだっていうことだったら、僕のところに来てからそうなったのはどういうことなんだろうって僕は思った。沙奈子は本当は僕のところにいるのが嫌なのかなとか考えたりもしたよ…」


そう語る僕の言葉に、伊藤さんは真っすぐに僕を見詰め、山田さんは両手で顔を覆った。僕は続けた。


「だけど、二人も昨日会った、大希ひろきくんのお父さんの山仁やまひとさんが言ってくれたんだ。沙奈子がおねしょをするようになったのは、確かにストレスが原因かもしれないけど、ストレスというのはその人にとって幸せなことが起こった時にもかかるものなんだって。例えば念願の家を手に入れてものすごく嬉しいっていうのも、医学的に見ればストレスがかかってる状態らしい。だから、沙奈子は幸せ過ぎておねしょをするようになったんじゃないかって」


僕の言葉に耳を傾けてくれる二人に、僕はさらに言った。


「それを聞いて、僕は本当にほっとしたよ。沙奈子が幸せだから逆におねしょをするようになってしまったんだったら、むしろ喜ぶべきじゃないかって。おねしょは確かに困ったことだけど、精神的なものだったら、成長とともにいつかは治るって。ぼくはただ、それを信じて待ってればいいんだって」


そこまで言った時、沙奈子が僕を見上げて言った。


「私、お父さん大好き。お父さんとずっといっしょにいたい。お父さんといっしょじゃなきゃヤダ」


その言葉に、僕は思わず沙奈子を抱き締めてた。


「僕も、沙奈子が大好きだよ。愛してる」


伊藤さんと山田さんが見てるのに、自然とそう言えてしまった。何の抵抗もなく、口から出た。ふと伊藤さんと山田さんを見ると、二人とも目に涙をためていた。そして山田さんが口を開いた。


「そうですよね。幸せ過ぎて沙奈子ちゃん自身がびっくりしてしまったんですよね。私もそう思います。大丈夫ですよ。私も、小学校の高学年までおねしょしてたっていう人に会ったことあります。その人も辛いことがあって夜尿症になってしまってて、でも自然に治ったって言ってました。沙奈子ちゃんもきっと大丈夫です」


山田さんに続いて伊藤さんも、


「そうですそうです。私なんて、お酒の飲み過ぎで大人になってからおねしょしましたから!」


だって…。あれ?、でも、そこまでぶっちゃけてよかったのかな?と僕は思った。


すると、そう言ってから伊藤さんの顔がみるみる真っ赤になるのを僕は目撃したのだった。



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