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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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十五 沙奈子編 「不安」

沙奈子がおねしょをした布団を干し、シーツと下着と部屋着を洗濯機に放り込み、洗濯を始めると、彼女がシャワーを終えて出てきた。新しい下着をはき服を着て、


「ごめんなさい…」


とまた謝った。


「いいよ、さっきも言ったけど、僕も失敗したみたいに沙奈子も失敗しただけだよ。失敗は誰にだってあるから、次から失敗しないようにすればいいと思うよ。とにかく食べて用意をしよう」


布団から出てきた時に見た、泣き腫らした彼女の目が頭をよぎる。おねしょしてしまったことに気付いてもどうしていいのか分からず、ずっと布団の中で泣いていたんだろう。彼女はもう自分で十分反省してるから、僕が言わなきゃいけないことはそれくらいだと思った。すでに反省してる人を責めたって、意味があるとは思えなかった。それよりも今は朝の用意だ。


最近は割と明るい顔で朝食とか摂ってたように思うけど、今日の沙奈子はまるでここに来たばかりの頃のように俯いて黙々とトーストを食べていた。しかも食欲もなかったらしく1枚しか食べられなかった。こんな時、僕はどう声を掛けてあげればいいんだろう…。


だけど時間はどんどん過ぎる。いつもより慌ただしい朝を経て、すごく気掛かりだったけどどうしようもなくて、取り敢えず学校に行く用意だけは済ませた沙奈子を残して僕は会社へと向かった。


会社に着いてからもいろいろ不安だったり心配だったりしたけど、学校に来なかったり様子がおかしければたぶん電話があるだろうと思った。それが来なかったから、きっと学校ではいつも通りにできたんだと思うことにした。今日は歯医者の予約があるから僕も残業はなしで早く家に帰れる。とにかく沙奈子の様子を見てあげたかった。


定時で仕事を切り上げ、どことなく冷たい視線を送ってきてる気がする同僚達を意識しないようにして、足早に会社を後にした。バスを待つ時間も惜しかったからタクシーを拾って、いつもより早く家に帰った。鍵を開けるのももどかしくドアを開けると、彼女はそこにいた。


「ただいま」


僕がそう言うと、


「おかえりなさい」


と、いつもの様に沙奈子は応えてくれた。


そして僕はようやく安堵したのだった。朝の様子しか見てなかったから、まるでここに来たばかりの頃のように沈んだ表情のままの彼女の様子だけしか見てなかったから、もしかしたらまたあの頃の沙奈子に逆戻りしてしまうんじゃないかと僕は不安だったのだ。


幸いそれは杞憂だったみたいだ。ひょっとすると学校に行ったことで気が紛れたのか、今朝のおねしょのことなどなかったかのように、そこにいたのは<今の>彼女だった。だから僕は自分の不安や動揺を押し隠して言った。


「じゃ、歯医者に行こうか」


歯医者では、特に状態の酷かった2本の治療が行われた。仮の詰め物が外され、僕にはよく分からない道具でガリガリと何かしてるようだった。だけど沙奈子は嫌がりもせず声もあげず、ただされるがままになっていた。


その後でそれにまた仮の詰め物をして、2本よりは少しマシだった1本には仕上げの詰め物をして、今日の治療は終わりだった。これで治療が必要なのはあと2本のみだけど、それが時間がかかりそうだった。


帰りにラーメン屋に寄って、今日はラーメンだけじゃなく餃子も食べた。食欲もあるみたいだから本当に大丈夫みたいだと思った。それからさらに大型スーパーに寄って、沙奈子の帽子を買った。てっきり水色のキャップタイプを選ぶかと思ったら、小さめの鍔がぐるっと全周に着いたたぶんハットとか言われる帽子を選んだ。それも、控えめなリボンがあしらわれたもので、確かに派手じゃないけど沙奈子には似合いそうな可愛い帽子だと思った。


もうすっかり日も暮れたから必要ないけど、レジでタグを切ってもらって早速かぶってみる。確かに似合うと思った。


「可愛いよ」って言ったら、沙奈子は少し照れくさそうに「ありがとう」って応えてくれた。


それで今日はとにかく家に帰ってお風呂に入って、沙奈子は宿題をして僕は家でできる分の仕事をして、10時頃にそろそろ寝ようかと思ったら布団を干しっぱなしだったことに気が付いてといれて、新しいシーツを着けて敷いた。一応、沙奈子の分も敷いたけど「一緒に寝る?」って聞いたらやっぱり頷いたから一緒に寝ることにしたのだった。


だけど…。




僕は、何かの気配に気が付いてふと目が覚めた。窓の方を見るとようやく空が明るくなり始めた感じだった。気配の方はと見れば、それは沙奈子だった。沙奈子が布団から出て、服を脱ごうとしてるところだった。


「沙奈子…?」


何気なく声を掛けると、彼女の体がビクッと跳ねるのが分かった。それを見て僕は、まさかと閃くものがあった。


「おねしょ?」


図星だった。彼女はその場で体を縮こまらせてポロポロと涙をこぼし、


「ごめんなさい…ごめんなさい…」


とまた何度も謝った。昨日のはたまたま失敗しただけと思ったけど、今日もだなんて。


いったい、どうしたんだろう?。もしかして何か体の具合でも悪いんだろうか?。そう思いながらも、二日くらいだとまだ結論を急ぐ必要もないかと考えてもう一日様子をと思ったら、また次の日も沙奈子はおねしょをしたのだった。


これはちょっとおかしいと思った。今までもおねしょしてたんだったら分かるけど、今までしてなかったのにどうして急にこんなことになったんだろう?。原因になりそうなものを考えてみる。初めておねしょした日の直前にしたことと言えば、臨海学校に、友達の家で遊んだことに…それと、僕と一緒に寝るようになったこと…?。


どれも今一つ原因としてピンとくるものじゃない。何かすごく嫌なことがあってそれでショックを受けたっていうんならまだ分かるけど、全然彼女が嫌がってるようなことじゃなかったはずだ。それでも、もしかしたらと思って、その日はちょっと可哀想だったけど別々に寝ることにした。だけど駄目だった。


だからまた一緒に寝るようにしたけど、その次の日も、そのまた次の日も。


これはいよいよ何かおかしいと僕は思った。毎日布団を干してシーツや服や下着を洗うのも大変だし臭いも気になりだしたから消臭アルコールをふりまくったりしたけど、そんなことより何かの病気なんじゃないかと心配になった。その時僕はふと山仁さんのことを思い出して、どこかいい小児科がないか教えてもらえないかと思って電話した。


さすがにおねしょのことは沙奈子も他人に知られるのは恥ずかしいかと思って言わなかったけど、山仁さんの掛かり付けの小児科を教えてもらって、次の歯医者の予約が入ってる日についでに診てもらった。そこでは特に異常なしということで、念のために大きい病院で精密検査をしてくださいと紹介状を書いてもらって検査を受けたけど、そこでも別に異常は見つからなくて、恐らく心因性のものでしょうと言われただけだった。


心因性のものと言われても、全く見当もつかない。


取り敢えず尿量を抑える薬を出しますので寝る前に飲んでくださいと渡されて、どうにもすっきりしないまま、僕と沙奈子は病院を後にしたのだった。



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