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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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百四十七 沙奈子編 「誤解」

途中まで一緒に帰って、石生蔵いそくらさんを家まで送る為に、大希ひろきくんとイチコさんと星谷ひかりたにさんとはそこで別れることになった。


「明日、行くからね」


石生蔵さんはそう言いながら手を振っていた。


それから僕たちもアパートに戻ってきた。「ただいま~」って言いながら部屋に入ると、僕と伊藤さんと山田さんはその場に座り込んで、「はあ~っ」っと溜息が漏れた。終わったなって実感があった。


でも沙奈子は子供だからかまだ元気があって、部屋で待っていてくれた人形の莉奈と果奈に「ただいま」って声を掛けてさっそく抱き上げてた。大人しく見えてもやっぱり子供なんだなあと思った。


それを見て僕たち三人は顔を合わせて、ふっと笑顔になってしまった。沙奈子が楽しめたんだなって感じられた。それが何よりだった。


しばらく大人しくして一息ついてから、伊藤さんのカメラの写真を僕のノートPCにコピーして、確認してみた。


「お~っ」って思わず声が漏れた。だけど沙奈子は自分の写真がすごく大きく表示されてるのを見てちょっと照れ臭そうにしてた。


応援合戦の時の写真、ハードル走の時の写真、ダンスの時の写真、100メートル走の時の写真。どれもしっかり沙奈子を捉えてるなって思った。ここまで大きな写真で見ると確かにダンスの時の写真が少しピントが甘い感じだったりブレ気味だったり沙奈子が真ん中じゃなかったりしてるのが分かってしまったけど、そんなの、プロじゃないんだから仕方ないと思う。それでこれだけきれいに撮れてたら満点だよ。僕だったら全然こうはいかなかった筈だ。


「ありがとう、本当にいい思い出になるよ」


そう言った僕に、伊藤さんは照れたように頭を掻いてた。


だけど本当に、この写真があれば十分かも知れない。僕が撮った動画は、一応保存はしておくけどあまり見ようって気にはならないかな。それでも僕の動画や山田さんが撮った写真も合わせてノートPCに保存した上で、メモリーカードにコピーして伊藤さんと山田さんに渡した。これでいつでもスマホでも見られるからね。メモリーカードは伊藤さんが用意してたものだった。


そうこうしてる間に日が暮れてきた。すると山田さんが、


「ちょっと早いですけど、夕食にしますか?」


って聞いてきた。ただ、うちにある冷凍食品とかじゃもうさすがに大したものは作れないと思う。それに今日の夕食は僕も決めていたのだった。


「今日はピザを頼むつもりだったんだけど、それでいいかな?」


僕が聞くと、伊藤さんが「さんせ~い」と言ってくれた。沙奈子も頷いてくれたし、山田さんも「じゃあ、私もそれでいいです」って言ってくれたから、宅配ピザを頼んだ。ピザを待ってる間に沙奈子の来週分の宅配のお惣菜が届いた。今日は午前中には受け取れないから配達を夕方にしてもらったんだった。


「そうか、冷凍のお惣菜にしてるんですね」


山田さんがお惣菜の現物とリストを見ながらそう言ってきた。そして、


「これなら下手に手作りするより栄養バランスが取れてますね。山下さんが料理苦手なら、この方が確実だと思います」


って言ってくれた。でも…。


「でも、私だったら温かい手作りのご飯用意してあげられるんですけど…」


…え?。それってどういう…?。


僕が山田さんの言葉の真意を測りかねてると、伊藤さんが声を上げた。


「あ~!、絵里奈えりなズルい!、ここで家庭的アピールとかする?」


その抗議に対しても山田さんは、


「いいでしょ別に~。玲那れいなだって沙奈子ちゃんのためだったら一緒に住んでもいいとか言ってるくせに」


とニヤニヤしながら返した。すると伊藤さんが真っ赤になって、


「ちょ、ちょっと、絵里奈のバカ!、またバラす~っ!」


って慌ててた。だけど山田さんの攻撃はさらに続いた。


「玲那、男の人は本来ダメなのに、山下さんだけは平気なんですよ。しかも結婚するなら山下さんみたいない人がいいって。現金ですよね~」


でもその言葉を聞いた時、さらに真っ赤になった伊藤さん以上に反応した人がいた。沙奈子だった。


「え!?、れいなおねえちゃん、お父さんとけっこんするの!?」


はい!?、え!?、なんでそうなるの、沙奈子!?。


と驚いたのもそうだけど、そう言った沙奈子は、僕に抱きついてきて伊藤さんを睨んだ。


「いくられいなおねえちゃんでも、お父さんをとっちゃヤダ!。お父さんは私のお父さんだから!」


沙奈子の言葉に、伊藤さんも山田さんもハッとなった。しまったって顔になった。


その時、チャイムが鳴らされた。なんだか微妙な空気の中、沙奈子に抱きつかれたまま玄関に行ってドアスコープを確認すると、宅配ピザの人だった。取り敢えずピザを受け取って、コタツの上に置いた。だけどまだ空気が微妙だった。沙奈子は僕にくっついたまま離れようとしなかった。


伊藤さんも山田さんもバツの悪そうな顔をして、何か必死に思案してるようだった。そして意を決したみたいに山田さんが口を開いた。


「ごめんね、沙奈子ちゃん。ちょっと調子に乗り過ぎたかも。でも大丈夫だよ。玲那お姉ちゃんは、沙奈子ちゃんからお父さんをとったりしないよ」


その山田さんの言葉に合わせて、伊藤さんも、


「うん、絵里奈お姉ちゃんの言う通りだよ。私たちは、沙奈子ちゃんと一緒にいたいの。沙奈子ちゃんからお父さんを取り上げるつもりとか全然ないから。だって私たち、もう家族なんだよ。そう言ったよね」


伊藤さんの言葉に、沙奈子の顔が「あ…!」って表情になった。何かが納得いった感じだった。僕も、頭を撫でながら沙奈子に言った。


「そうだよ。伊藤さんも山田さんも、沙奈子のことが好きだから一緒にいたいんだ。沙奈子ともっと家族らしくなりたいから、一緒にいたいって言ってくれるんだよ。大丈夫。それに前にも言ったろ?、僕はどこにも行かないし誰のものにもならない。僕はずっと沙奈子のものだ。だから伊藤さんと山田さんも、沙奈子のものだよ。だって家族なんだから」


沙奈子は僕を見て、伊藤さんと山田さんを見て、また僕を見た。僕も、伊藤さんも、山田さんも、頷いた。すると沙奈子が僕を離してくれた。そして伊藤さんの方を向いて、


「ごめんなさい…」


って頭を下げた。誤解してたことを謝ってくれたんだって思った。それを謝ってくれるなんて、すごい子だと僕は思った。伊藤さんなんか逆に焦ってた。


「ううん、謝らないといけないのは私の方だよ。ごめんね、勘違いさせちゃって」


山田さんなんてそれこそ目に涙をためながら、


「ごめんね。沙奈子ちゃんごめんね。私の言い方が悪かったね」


って何度も謝った。


沙奈子もそれで安心したのか、ポロポロと涙をこぼし始めた。伊藤さんと山田さんが、その沙奈子を抱き締めた。そして僕は、さらにその三人を抱き締めたのだった。


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