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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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百四十六 沙奈子編 「閉会」

後で沙奈子から聞いて分かったことだけど、この時、彼女が突然そんなことを聞いてきたのは、ダンスが終わった後で、僕たちのことを見たクラスの子が、『あの人、山下さんのお母さん?』って聞いてきたのを沙奈子が『ううん、お父さんのお友だちのおねえさん』と正直に答えたら、『家族じゃないのに山下さんのこと見に来て泣いてるの?。変なの』って言われたからっていうのもあったらしい。


そう聞いてきた子にも別に悪気があったわけじゃないのは分かった。ただ、やっぱり沙奈子にとっては不安になる言葉だったみたいで、僕たちが家族なんだということを確かめたくなったらしかった。


そうだな。家族って何かって話にもなってくるから本当は難しいかも知れない。でも僕たちはもう家族だと思ってる。伊藤さんと山田さんの口からもはっきりとそれが聞けた。赤の他人が結婚という形で家族になれるんなら、赤の他人が家族になってもおかしくないって改めて思った。


もし、今の状態に法律上の問題があって、それを解決するために何か手続きが必要だって言うなら、伊藤さんや山田さんもそれを望んでくれるなら、その手続きを取ることだって僕はもういとわない。それが沙奈子のためになるんならね。


でもまあその話は今はさておいて、沙奈子の運動会も、彼女の出番は残り100メートル走のみ。しかも運動会全体もそれを含めても競技は残り五つだけだった。いよいよ終盤ってことか。


低学年による玉入れが終わり、5年生による100メートル走が終わり、1年生による風船のパフォーマンスが終わり、沙奈子たち4年生による100メートル走が始まった。僕たちはまたゴールのところで沙奈子を待ち構えた。今度は身長順だったみたいで、沙奈子の順番は割と早かった。でも順位は六人中六位だった。沙奈子が遅いというのもあるけど、それ以上に他の子たちの走り方が本気だった。組み合わせが悪かったみたいだ。


ちなみに石生蔵いそくらさんは今度は一位で、大希ひろきくんはまた六位だった。もともとあまり運動は得意じゃないんだな。体も小さいし、その辺りは仕方ないのか。それに本人も楽しそうだからあまり気にする必要もないんだと思う。


100メートル走が終わり、とうとう沙奈子の出番は終了した。だけど残りの競技は一つだけだし、折角だから最後までいようと思う。そして沙奈子も待って、みんなで一緒に帰ろう。


最後の競技は、白組紅組双方から二組ずつでそれぞれの学年から選ばれた選手によるリレーだった。最後の最後に運動が得意な子による真剣なレースを持ってきたっていうことか。低学年の子たちの走り方はまだ子供らしい可愛い感じだったけど、高学年の子たちになるとさすがに走り方も違ってる印象だった。そして早かった。結果は紅組が一位と四位、白組が二位と三位だった。そして、全ての競技が終了した。


途中結果は白組が優勢だった。けど点差はそんなに大きくなかった。さっきのリレーがどういう点数の振り分けになってるか知らなかった僕たちには、最終の結果がどうなるのかまだ分からなかった。数分経って、


「それでは、結果発表です!」


とアナウンスがあった。みんなが点数表に注目した。


「紅組、335点。白組、338点。よって、白組の勝利です!」


その瞬間、白組の子たちが「やったーっ!」って声を上げた。飛び跳ねて喜ぶ子や、何度もガッツポーズをとる子や、抱き合って喜ぶ子もいた。その中で沙奈子は派手に喜ぶわけじゃないけど、嬉しそうに笑いながら手を叩いてた。それだけでも十分に喜んでるのが僕たちには伝わってきた。


勝った白組の代表の子が優勝旗を受け取り、改めて拍手と歓声が起こった。それから校長先生による閉会の挨拶があり、そして最後のアナウンスがあった。


「これで運動会は終わりです。生徒の皆さんは、1年から順番に、自分の椅子を持って教室に戻ってください。各係の方は後片付けの準備をお願いします。保護者の方は、周りのゴミの回収にご協力をお願いします」


ゴミの回収にご協力をお願いしますって言われたからぐるっと周囲を見渡したけど、ほとんどゴミらしいゴミが落ちてなかった。水分補給は別として基本的に飲食は禁止されてるみたいだったから、それもあるのかもしれない。伊藤さんと山田さんも、


「ほとんどゴミとか落ちてませんね」


「ほんと、私の学校とか酷かったですけど」


って少し驚いてた。僕も同じ感想だった。生徒がゴミ拾いをやらされて、すごく嫌だった覚えがある。だからこういう面でもすごくいい運動会だったと思った。


4年生の順番が来て、沙奈子も自分の椅子を持ってみんなと一緒に教室に戻っていった。その前に、


「校門のところで待ってるから。一緒に帰ろう」


と伝えておいた。沙奈子は「分かった」って頷いた。それを見送ってから僕は、伊藤さんと山田さんに、


「じゃあ、沙奈子が来るまでゴミ拾いでもしますか」


って言った。ただ待ってるのも退屈だからね。二人も「そうですね」って言ってくれた。見たら、イチコさんと星谷さんもゴミ拾いしてるみたいだった。山仁さんの姿もあった。でもやっぱり、大きなゴミはほとんど落ちてなかった。煙草の吸殻なんかそれこそなかった。僕の運動会の時はものすごくたくさん吸殻を拾わされたのを覚えてる。学校とか地域によっても違うのかもしれないけど、沙奈子は本当にいい学校に入れたんだなって思った。


少しばかりのゴミと、落し物らしいストラップを係りの人に渡して、僕たちは校門の近くで沙奈子を待った。混雑を避けるために低学年の子から帰るようにしてるらしくて、結局30分ほど待たされた。もっとも、伊藤さんと山田さんのおしゃべりのおかげで全然退屈はしなかったけどね。


ついでに写真とか動画とかのチェックもした。伊藤さんがちゃんと撮れなかったと悔しがってた沙奈子のダンスも、僕が見ただけだとすごくきれいに撮れてたと思う。でも伊藤さん的には納得いかない出来だったらしい。僕の動画の方はそれこそブレブレで見てると気分が悪くなった。途中、夢中になり過ぎて動画撮ってること忘れてたもんな。無理もないか。


と、その時、伊藤さんが声を上げた。


「あ、沙奈子ちゃんです!」


それにつられて視線を向けると、大希くんと石生蔵さん、イチコさん、星谷さんと一緒に沙奈子が歩いてくるのが見えた。体操服を着替えて私服に戻ってた。それで結局、八人で途中まで一緒に帰ることになった。すると星谷さんが、


「先ほども申し上げましたけど、明日は、千早さんと一緒にお伺いしますので、よろしくお願いします」


って改めて言ってきた。それを聞いた沙奈子が「え?」って顔をして僕を見た。正直戸惑ってるんだなって思った。そこで山田さんが、


「沙奈子ちゃん、明日は私たちも一緒だから、大丈夫だよ」


って言ってくれたら、今度は「ほんと?」って嬉しそうな顔になったのだった。



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