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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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百四十 沙奈子編 「圧倒」

「こんにちは」


大希ひろきくんのお姉さんのイチコさんが、頭を下げて挨拶してくれた。僕も「こんにちは」って応じる。伊藤さんと山田さんも「こんにちは」って挨拶してた。


でもこの時、僕がイチコさん以上に気になってたのが、石生蔵いそくらさんと抱き合いつつ大希くんに何か熱い視線を送ってるもう一人の女の子の方だった。


すると、大希くんが、


「この人、ピカちゃんっていうの。僕の勉強見てくれてる人だよ」


って紹介してくれた。


え?。勉強見てくれてる人?、ってことは、この人が大希くんの家庭教師っていう…?。


戸惑う僕たちの前で姿勢を正して、その子は真っすぐな視線を向けてきた。


「初めまして。私は、大希くんの家庭教師をしています、星谷美嘉ひかりたにみかと申します」


言葉遣いはあくまで丁寧で声も決して大きくないのに、イチコさんの同級生ならまだ高校一年生で僕より一回り以上年下のはずなのに、何とも言えない圧力を、僕はその女の子から感じたのだった。迫力と言うかオーラと言うか、うまく言葉にはできないけど、とにかく気圧される感じだった。それはまさに、沙奈子から話を聞いた時に感じてた印象そのままだったと思う。いや、それ以上かもしれない。しかも伊藤さんと山田さんも、なんだかその子に圧倒されてるみたいに見えた。沙奈子なんか、こっちに来たのはいいけど完全に山田さんの後ろに隠れてた。


そんな僕たちとは対照的に、石生蔵さんはその女の子にすごく甘えるみたいに抱き付いてるし、大希くんは何だか自慢げな様子だった。なんなんだ、これ?。


混乱してる僕たちをよそに、大希くんが沙奈子を指さして言った。


「ピカちゃん、この子が山下さん。僕と石生蔵さんの友達だよ」


それに対してピカちゃんと呼ばれたその子はその場にしゃがみこんで沙奈子の目線に合わせて、


「初めまして、山下さん」


と穏やかな笑顔を浮かべたのだった。それを見てようやく、石生蔵さんがこんなに懐いてる理由が少し分かった気がした。小さな子に対してはこういう雰囲気にもなれる子なんだ。


それにしても、この子、本当に高校生なのか…?。それが正直な印象だった。はっきり言って僕たちよりよっぽどしっかりした感じだし大人っぽいぞ。見た目は確かに高校生くらいの感じだけど。


呆気にとられてる僕たちの後ろで、最初の競技が始まった。そうなるとさすがに父兄同士で立ち話してるのもはばかられて競技の方を見たし沙奈子たちは自分の席に戻って応援してたけど、僕も伊藤さんも山田さんも、なんだかピカちゃん、じゃなかった星谷さんのことが気になって仕方なかったのだった。すると伊藤さんが顔を寄せて小声で僕に聞いてきた。


「え、と、あの女の子、石生蔵さんって子の親戚のお姉さんか何かですか?」


そう聞かれても僕もあまり詳しくはないけど、分かる範囲で応えた。


「いえ、あの子は、沙奈子の友達の大希くんの家庭教師をしてる子で、大希くんのお姉さんのイチコさんと同級生らしいんだけど、それがいろいろあって石生蔵さんに懐かれて、お姉さん的な感じになってるみたいで。ちょうど、沙奈子にとっての伊藤さんと山田さんと同じって感じかな」


すると二人も「あ、なるほど」ってとりあえず納得してくれたみたいだった。今のところは、不審者扱いされてたこととかについては黙っておいた方がいいかも知れないと思った。その辺りの詳しい事情は僕も知らないから変に説明すると間違うかも知れないし。


一応はそういうことで理解することにして、競技の方に集中することにした。すると、競技が二つ終わったところで、水谷先生が沙奈子たちを呼びに来た。次の次が出番だから、準備に入るってことだった。


沙奈子が僕たちに手を振りながら行ったと思ったら、大希くんと石生蔵さんが「行ってきま~す」って声を合わせてイチコさんと星谷さんに手を振って、沙奈子と一緒に走っていった。


だからそこには、僕たち三人と、イチコさんと星谷さんが残された形になった。その時、イチコさんが星谷さんに話しかけるのが聞こえた。


「あれ?。そう言えばピカ、写真とか撮らなくていいの?。うちはお父さんがカメラ持ってくるはずだからいいけど」


そう言ったイチコさんに対して、星谷さんは親指をぐっと突き出してニヤリという感じで笑いながら応えた。


「その辺は抜かりありません。プロのカメラマンに依頼済みです。ほら、そこ」


と指さした先には、すごい望遠レンズを付けたカメラを構えた男の人が立っていた。その人のことは目立ってたから気付いてたけど、あんまりにも本格的な感じだったからてっきり学校が依頼したカメラマンだと思ってた。それが星谷さんが個人的に依頼したプロのカメラマンだって?。僕たちは三人とも驚いてしまってた。


今度は山田さんが僕に話しかけてくる。


「個人で、自分の家族じゃない子の写真を撮るためにプロのカメラマンに依頼するって、彼女、何者でしょう?」


いや、僕に聞かれても…。「さあ…?」としか答えられなかった。ホント、何者だろう。身なりも何か違う感じだし、もしかしたらすごいお金持ちだったりするのかな…?。


なんだか突拍子もなさ過ぎて考えても無理っぽいと判断した僕は、


「まあ、いいんじゃないかな。僕たちは沙奈子を見に来ただけだから、気にしない方向で」


と二人に提案した。すると伊藤さんも山田さんも、


「そうですね。沙奈子ちゃんを見てればいいですよね」


と納得してくれたのだった。って言うか、納得するしかなかった感じかな。うん。


そうこうしてる間に競技が終わって、次の競技が始まった。この次が、沙奈子が出るハードル走だった。伊藤さんが聞いてきた。


「どうします?。ゴールの方に行ってみます?」


僕たちがいた沙奈子たちの席のある辺りはスタート地点の近くだったから、ゴールは逆方向だった。そうだな。せっかくだから沙奈子が頑張って走り切ったところを見届けたいなって僕も思った。


「うん、そうしよう」


と応えてさっそく移動を始めた。生徒数が少ないから父兄の数もそれだけ少なくて混雑もそれほどじゃなくて、移動は割と楽だった。他の父兄の人たちも、結構、いろいろ移動してた。場所取りに必死にならなくていいのはすごく助かる。


ゴールのところに来ても、十分、カメラで狙えるくらいの人数だった。周りを見たら、星谷さんが依頼したっていうカメラマンもゴールに向けてカメラを構えてた。


しかもその時、


「あ、山下さん」


って声を掛けられた。聞き覚えのあるその声の方に振り返ると、そこにいたのは山仁やまひとさんだった。やっぱり見に来てたんだ。しかも手にはイチコさんが言ってた通りデジカメが握られてた。


「どうも、こんにちは」


僕が挨拶を返すと、伊藤さんと山田さんも一緒に「こんにちは」って挨拶してくれたのだった。



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