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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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百三十七 沙奈子編 「写真」

お風呂の後、髪を乾かしてすぐに寝るようにした。明日は運動会があるから本当は先に入っててもよかったんだけど、折角の金曜日だからね。時間も10時をちょっと回るくらいで済んだし。


髪が乾いたらすぐに布団を敷いて、僕たちは横になった。


「明日はいよいよ運動会だね」


僕がそう言うと、沙奈子も「うん」と頷いた。変に気負った感じもなく普通にそう返事をしてくれた。だから僕も何も心配要らないと思った。雨の音がしてないかどうか外に意識を向けても、そんな気配はなかった。あとはもう、なるようになれって感じだった。




翌朝。平日と同じ時間に起きる。カーテンの隙間から外を見ると、良かった。雨は降ってない。雲は多いものの空も割と明るい感じだった。これならできるはずだ。7時に学校のHPで最終判断が掲示されるらしいから、それまでに用意は済ませておこう。と、いつもと同じようにやるだけだから、何も問題はなかった。


体操服は学校で着替えるらしい。ランドセルで登校してもいいとはなってたけど、お弁当を入れるとなるとランドセルじゃ逆に具合悪いかな。だから僕のリュックに体操服と水筒を入れておく。山田さんがお弁当を持ってきてくれたら、改めて入れ直せばいい。


そうこうしてる間に7時になった。HPを見てみると、『本日、予定通り運動会を行います』となっていた。よし、これで後は伊藤さんと山田さんが来るのを待つだけだ。


用意も万端で、沙奈子は僕の膝で莉奈りな果奈かなで遊んでいた。するとそこに、僕のスマホに着信があった。山田さんからだった。


「おはようございます。今、バス停に着きました。今から行って大丈夫ですか?」


明るい声でそう言われて、僕も思わず顔がほころんだ。スマホから漏れた声が聞こえた沙奈子も嬉しそうだった。


「はい、いつでもOKです」


するとまた1分ほどでチャイムが鳴らされた。ドアスコープで二人だってことを確認して鍵を開けた。


「おはよう、沙奈子ちゃん!」


ドアが開くなり沙奈子の姿を見つけた山田さんが両手を広げてそう言った。すると沙奈子が駆け寄って山田さんに抱きついて、


「おはよう、おねえちゃん!」


と元気に言った。改めて沙奈子もこんな声が出るんだなって思わされた。


「私もいるよ~、沙奈子ちゃ~ん」


山田さんの後ろから手を振りつつ伊藤さんが言うと、山田さんに抱きついたまま沙奈子がまた嬉しそうに声を上げた。


「れいなおねえちゃん、おはよう!」


もうこの様子だけで僕は満足って気分だった。でも、今日はまだまだこれからだ。部屋に上がりながら山田さんが言う。


「これ、沙奈子ちゃんのお弁当です」


可愛らしい水色のランチバッグが差し出されて、僕はそれを受け取りながら、


「ありがとう。本当に助かるよ」


と頭を下げた。すると山田さんは、少し上気したみたいな顔で微笑んでくれた。


「いえいえ、私も沙奈子ちゃんのお弁当作るのすごく楽しかったです」


すると伊藤さんが、


「私も昨日から絵里奈えりなの家に泊まり込んで備えたんですよ」


と言いながら肩に担いだバッグを僕たちに見せるように持ち上げた。ファスナーを開けるとそこから出てきたのは、本格的なカメラだった。確か、一眼レフとかいうやつだ。伊藤さん、こんなカメラ持ってたのか。


思わず呆気にとられる僕に、伊藤さんは説明するように語り出した。


「聖地巡礼とかで記念にきれいな写真撮りたいと思って買ったんですよ。やっぱりスマホとかの写真とは迫力が違いますよ」


何だか鼻息が荒い。それにしても聖地巡礼って、確か、アニメとかドラマの舞台になった場所にファンが訪れること、だったかな?。なるほど伊藤さんはアニメ好きだからそういうのもあるのか。と、僕は一人納得してた。


こうして四人揃って、時間まで運動会のプログラムを見ながら沙奈子の出番とかを改めてチェックした。


「沙奈子ちゃん、ダンスするんだ?」


伊藤さんが、沙奈子が出る四年生全員のダンスのことを聞いて、少し驚いた感じでそう言った。沙奈子が「うん」と頷くと、


「じゃあ、このカメラで沙奈子ちゃんのカッコいいところとか可愛いところとかばっちり撮らなくちゃね」


って、沙奈子に向けてシャッターを切った。フラッシュにはびっくりしたみたいだけど、沙奈子もちょっと照れた感じで嬉しそうに笑ってた。デジタルの一眼レフだからカメラのモニターですぐに写真を見られた。そこに写った自分を見る彼女の顔は、どこか不思議そうだった。


僕も一応、スマホで沙奈子の写真とか撮ってきてた。でもさすがにこんな本格的なカメラで撮られるのは慣れてないってことなのかな。そんなことを思ってると、沙奈子が言った。


「これもカメラなの?」


だって。そうか、沙奈子はスマホとか携帯のカメラしか間近で見たことがないのかもって気付いた。そうだよな。最近みんな、スマホとか携帯のカメラで写真撮るから、小型のデジカメさえあんまり見なくなったもんな。沙奈子は伊藤さんの持ってるのがカメラだって分かってなかったんだな。さすがにこれには軽くジェネレーションギャップを感じてしまった。


「そうだよ。これで沙奈子ちゃんの写真撮りまくっちゃうぞ」


伊藤さんもテンションがすごく上がってる感じだった。でもその前にって感じで、カメラに残ってた写真を沙奈子に見せながら、


「これは、去年、小豆島に聖地巡礼に行った時の写真で…」


とか語り始めた。そこから先はアニメの内容とか実際の場所がアニメの中でどんな風に描かれてたかの説明になって、僕は正直ついていけなかった。たぶん、沙奈子もほとんど分かってなかったと思う。アニメどころかテレビもほとんど見ないから。だけど楽しそうに語ってくれる伊藤さんの話を聞いてるだけで彼女も楽しかったんだろうな。すごく嬉しそうだった。


そんな感じであっという間に学校に行く時間になり、山田さんのお弁当も改めて入れたリュックを背負った沙奈子に、僕は「いってらっしゃい」と額にキスをした。すると沙奈子もお返しのキスを僕の頬にしてくれた。それを見た伊藤さんと山田さんが驚いた顔で、


「沙奈子ちゃん、いいなあ~!」


って声を揃えてそう言ったのだった。いつのも感じで何気なくしてしまったけど、そう言えばこうやってキスしてるってのは二人にはまだ言ってなかったんだ。下手したら引かれてたっておかしくないそれを、二人は羨ましそうにしてくれた。何だか照れ臭かったのも、それですごく自然に振る舞えた。


いつもはここで見送るだけだったのを、伊藤さんと山田さんは集合場所までついて行った。僕はさすがに今さら照れくさくて行けなかったからドアのところでその様子を見てた。近所の子らが全員集まったのが確認されると、学校へ向けて出発した。それを伊藤さんと山田さんは手を振って見送ったのだった。


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