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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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百二十九 沙奈子編 「類友」

思えば僕がしつこいくらいに自分に言い聞かせるのだって、他人から見たらきっと狂気じみてると思う。毎日毎日、あーでもないこーでもないと思考を巡らせてるのは、理解できない人には到底理解できない行為なんじゃないかな。でも僕にとってそれは必要なことであり、そうしてないと精神のバランスを保っていられないくらいに僕は病んでいるんだと思う。


だって、『今日は不幸なことが起こるかも知れない』『明日こそ不幸なことが起こるかも知れない』なんてことを心配しながら沙奈子の無事な姿を見て安心してなんて、それだけでも十分に普通じゃないよな。口に出して言わないから他人からは分からないだけで、もしこれを口に出してたら、相当に不気味だと思うし気持ち悪がられる気がする。


山田さんの人形に対する思い入れも、それと同じようなものだと思えば、そんなに気にするほどのことじゃない感じがしてきた。


そうか、『類は友を呼ぶ』というのは、こういうことを言うのかもしれない。決して表面的なことだけじゃなく、それぞれ本質の部分で似通った者同士が何となく呼び合うように近くなることも指してるのかもしれない。


こうして山田さんの人形、莉奈りなも、我が家の一員になったのだった。とは言え、人形の世話なんて僕に分かる訳もなく、結局は沙奈子が面倒をみる?ことになるんだと思うけど、別の意味でもすごいことになったなあって感じだった。


だけど、僕のそんな感想をよそに、沙奈子は立派な人形を自由にしていいということになったからか、とても上機嫌だった。おかげで二人が帰る時になっても「また来てね」って明るく言えて、寂しがることはなかった。それはたぶん、僕が莉奈を預かることを承諾した時に山田さんが言ったことも影響してるんだと思う。


『それじゃあ、なるべく毎週、様子を見に来ますね』


っていう。つまり、毎週来ますっていう意味だよな。


でも不思議と、嫌な感じはしなかった。人間嫌いで騒々しいのは苦手なはずなのに、毎週この調子になるのかって気付いても、ぜんぜん嫌じゃなかった。むしろ僕自身が嬉しかったかもしれない。二人に会うのが嬉しいのか、それとも二人が来ることで沙奈子が喜ぶのを見るのが嬉しいのか、自分でもよく分からない。いや、三人が楽しそうにしてるのを見るのが嬉しいのかな…?。


別にどれでもいいか。僕自身が嫌じゃないんだから、悪い意味でのストレスにもならないと思うし、それに沙奈子にとっても人間関係を広げていくきっかけになるかも知れないし。


そんなこともまた頭の中でぐるぐるさせながら、僕は夕食の用意を始めることにした。ただ、山田さんのカルボナーラをたくさん食べたからか、そんなにお腹は空いてなかった。だから軽く玉子焼きだけで夕食にすることになった。沙奈子もそれでいいって作る気になってくれてるから。


すると、僕はちょっとした違和感に気が付いた。違和感って言うか、変化かな。料理をするときの沙奈子の手つきが、何となく今までと違ってる気がする。今まではどことなく不安そうな、おっかなびっくりでオドオドした感じがあったのが、なんだかすごく堂々としてる気がした。これってもしかして、山田さんと一緒に料理をしたから?。


何しろ僕自身、料理は得意じゃないどころかできればやりたくないって思ってるからか、他人から見たらきっと頼りない感じなんだろうって自分でも分かってた。沙奈子は今までそういう僕のやり方を見てたから、自信なさそうにモタモタしてたのがうつってしまったのかも。それが、手際よくささっとやる山田さんのやり方を見て、その影響を受けたんじゃないかなって気がした。


考えてみれば、裁縫を見てても分かるけど、沙奈子は決して不器用な子じゃない。それどころかきっと手先は器用なタイプなんだと思う。それが、手本が悪くて上手にできなかったんだとしたら、なんだかとても申し訳ないって思えてきてしまった。これからはもっと、沙奈子に任せる感じでいいのかなって思った。


ただやっぱり、火とか使うには大人の僕が傍にいた方がいいだろうから、もしものことがあった時に沙奈子に責任を負わせずに済むように、その辺りは譲らないでおこう。その一方で、僕が見てる前でなら、彼女のやり方に僕が合わせていくくらいでいいかも知れない。


なんて僕が考えてるうちに、沙奈子が二人分の玉子焼きを作ってしまった。形はまだきれいとは言い難くても、手際については何も不安はなかった。もしこれで、毎週、山田さんに料理の手ほどきをしてもらったら、沙奈子はひょっとして料理の腕もすごいことになるんじゃないのか?。そこまでじゃなくても、料理が下手で困るってことはなくなる気がする。


不思議だよな。山田さんは今でも決して小さくない闇を抱えてて、見方によってそれは狂気のようにも感じられるけど、彼女は決して悪い人じゃないし誰かを傷付けたり苦しめたりする人でもないんだ。ただ他人からは理解しにくいこだわりと言うか思い込みみたいなものがあるというだけで。しかもそれは、自分自身を支えるためのものでもあるわけで。


亡くなった友達に外見を似せようとしてたことも、きっとそういうことの一つなんだと思う。他人からすれば気味の悪いことでも、それが誰かに害を及ぼすようなものじゃなければとやかく言われることじゃないはずだよな。だから僕は山田さんのことを、山田さんのこだわりを認めたいと思う。僕のことを認めてくれる彼女を、僕も認めたいと素直に思えた。


軽く夕食を終えて、沙奈子と一緒にお風呂に入る。こうやってこの子と一緒にお風呂に入ってることや、この子が今でもおねしょをすることも、二人になら話せそうだと思った。わざわざこちらから話す必要はなくても、隠す必要も感じなかった。


でももし、もしもだけど、仮定の話だけど、僕たち四人が一緒の生活するようになったとしたら、どんな感じになるんだろう?。沙奈子に一緒に湯船に浸かりながら、そんなことを考えた。お風呂はやっぱり、伊藤さんや山田さんと一緒に入ることになるのかな。いや、僕じゃなくて沙奈子がね。普通はそっちの方がまだ自然な気がする。ただ、もしそうなったらと思うと、少し寂しいかなとも思ってしまった。最初は僕自身が戸惑ってた一緒のお風呂も、今ではすっかり癒しになってるし。


幸か不幸か、僕は性的なことに対する関心が人並み外れて薄かった。不能ってわけじゃないんだけど、なぜか興味も湧かないし気持ちが昂ることもなかった。沙奈子と一緒に暮らし始めた頃にはこれをきっかけにしてそういうことに目覚めたりしたらっていう不安もあったのに、今ではそんな不安を感じてたことすら忘れかけてる。


もしかしたらこれも、実は僕が抱えてる『闇』だったりするかもしれないけどね。でもまあ、おかげで沙奈子や伊藤さんや山田さんを傷付けたりしないで済むのなら、それで構わないんだけどさ



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