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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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百二十七 沙奈子編 「団欒」

お昼を終えて僕たちは、山田さんが持ってきた紅茶をいただいていた。沙奈子には砂糖入りの甘いのを。僕たちはストレートで。


「結局、最後はこういうシンプルなのに落ち着きますよね~」


食べ過ぎたとダウンしていた伊藤さんが復活して、そう言った。それを見て沙奈子と山田さんがクスクス笑ってる。僕もそんな三人を見て何だか楽しい気分になってた。なのに落ち着いた感じもある。リラックスできてる。ああ、家族ってこういうことなのかな、なんて思ったりする。


でもそろそろ、沙奈子の昼の勉強の時間だ。


「沙奈子、勉強できる?」


気乗りしないなら無理にさせようとは思ってないからそう聞いたけど、彼女は「うん」と頷いて自分でドリルを出してきた。なのに、僕を見たままそれ以上動こうとしない。まさかと思って聞いてみた。


「もしかして、お膝?」


また「うん」と頷く。そうか、彼女にとっての勉強する環境ってそういうことなんだなって改めて思った。


座布団なんて気の利いたものを置いてなかったから僕たちだけ座椅子を使うのも気が引けて使わなかったのを、沙奈子が僕の膝で勉強したいということなら使わないわけにもいかなかった。僕が座椅子に座ると、当たり前のように沙奈子が僕の膝に座る。すると伊藤さんと山田さんが、羨ましそうに言った。


「ああ~、いいな~」


「沙奈子ちゃん、お膝してもらってるんだ~」


ええ?、それってどういう…?。


僕は二人の言ったことの意味をいろいろ考えてしまったのに、沙奈子はただニコニコ笑ってる感じだった。自慢してるつもりなのかな。でもそれから後は、僕の膝に座って黙々とドリルをする沙奈子を、伊藤さんと山田さんが挟む感じで勉強の様子を黙って見守ってくれたのだった。


一時間ほど経って「じゃあ、そろそろ時間だよ」と僕が声を掛けると、切りのいいところで今日の勉強は終わったのだった。ドリルを閉じた沙奈子に、二人が驚いたみたいに声を掛けてくれた。


「すご~い!」


「沙奈子ちゃん、頑張ってるね!」


彼女の勉強が遅れてるから、2年生とかそこらのをやってるのは二人には言ってあった。だけど実際に見るのは初めてな訳で、熱心に次々と問題を解いていく彼女の姿に感心してくれたんだと思った。沙奈子も二人に褒められてすごく嬉しそうだった。僕も、彼女が頑張ってる姿を二人が黙って見守ってくれたことが嬉しかった。そこで変にあれこれ口出しするんじゃなくて、ただ頑張ってるところを認めてくれたのがありがたかった。


そんな感じで勉強が終わると、いつもならここで図書館や買い物に行くところなんだけど、さて、どうしよう。


僕がそんな風に考えてると、伊藤さんが尋ねてきた。


「この後は、いつもはどうしてるんですか?。私たち、いつもの沙奈子ちゃんと山下さんの生活パターンに合わせようと思って来たんですけど」


そう言われたから、じゃあってことで聞いてみた。


「いつもは図書館に行って買物に行ってってしてるんだけど、一緒に行く?。二人の自転車が無いからみんなで歩いていくことになるけど」


その僕の言葉に二人は、「行きます!」と答えてくれた。二人の気遣いに僕は正直言ってほっとしていた。二人の方に合わせることになると、たぶん僕は気疲れしてしまうと思う。二人の方が僕たちに合わせてくれるのがありがたかった。


そういうわけで、みんなで歩いて図書館とスーパーに行く。沙奈子も嬉しそうだった。山田さんと手をつないで、僕と伊藤さんの前を歩いた。他人からは、僕たちはどんな風に見えるだろう。夫婦と娘と親戚…、はちょっと無理があるかな。やっぱり一番可能性がありそうなのは父娘と親戚のお姉さんって感じかな。そう見えてくれたら嬉しい気がする。伊藤さんもそう思ってるみたいだった。


「私たち、家族に見えると思います?」


その言葉に僕は思わず顔がほころんでしまった。


「さあ、どうかな」


と曖昧に返してみたけど顔がにやけてるのはバレバレだった気がする。現に何気なく伊藤さんの方を見たら彼女もニヤニヤしてたし。照れ臭い感じがしながらもそんなに気にならなかったのは、やっぱり嬉しかったからかもしれない。


まず図書館に行って、本を返した。だけど今日はもう、本は借りなかった。何しろ時間があれば沙奈子は裁縫をしてるから、結局、先週借りた本も読み切れなかったし。だから今度からは買った方がいいと思った。そうすれば期限を考えずにいつでも読めるし、またたくさん読みたい気分になってきたら借りればいいし。


「今日は借りないんですか?」


って伊藤さんにも聞かれたからそう説明しておいた。


図書館を出て、今度はスーパーに向かった。みんなでゆっくり歩きながらというのも、悪くなかった。けどそれは、一緒にいるのが伊藤さんと山田さんだからっていうのももちろんあると思う。きっとこの組み合わせじゃなかったら、ただ疲れるだけだった気がする。


スーパーではいつもの買い物をして、でも二人は、この後の時間をより楽しむためにとおやつを買い込んでいた。まあいいか。たまのことだもんな。


それからみんなで一緒にアパートに戻る。30分くらい歩いたから、ちょうどいい散歩になったんじゃないかな。


この後は夕食の用意まで特に予定はない。たぶんいつもの調子なら沙奈子が裁縫して僕が居眠りでもする感じになりそうなところを、二人が買ってきたおやつを広げてまた三人でおしゃべりを始めたのだった。


とは言っても、やっぱり沙奈子はほとんど二人の話を聞いてるだけなんだけどね。だけどそれが嬉しそうだから、彼女も楽しんでるんだと思う。それよりはむしろ僕が若干、蚊帳の外になる感じはある。男一人だけだから仕方ないのかもしれないけど。


しかも、あの莉奈りなって名前の山田さんの人形まで加わってる感じになってるから、まるで女の子4人でおしゃべりしてる風にも見える。それどころか、沙奈子は莉奈を抱かせてもらって、妹をあやしながら話をしてるみたいですらあった。その姿がまた、ハマり過ぎてて違和感が全然ない。それだけ人形のことを気に入ってるようだと、帰る時、ちょっと寂しくなるんじゃないかって心配にすらなった。


そんな感じで時間が過ぎて、日が傾いて部屋が薄暗くなってきた頃、伊藤さんが不意に言った。


「あ、もうこんな時間?。そろそろおいとましなきゃ」


その言葉に沙奈子がハッとなって、莉奈を抱き締めるようにして少し寂しそうな顔をした。それを見た山田さんが言う。


「そっか、お別れするの寂しいんだね。じゃあもうちょっとだけお話してようか」


そう言った山田さんを見て、今度は伊藤さんが少し悲しげな表情をしたように見えた。僕はそれがなぜか気になってしまっていたのだった。


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