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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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百十二 沙奈子編 「友和」

「山下さん、何か気が付きませんか?」


四人で商店街の方に向かって歩いてる時、伊藤さんが急にそんなことを聞いてきた。何のことだろうと思った僕だったけど、すぐにハッとなった。


「それ、もしかして僕の…?」


そう、伊藤さんと山田さんの肩には、僕がプレゼントしたストールがかかってたのだった。伊藤さんは緩く巻く感じで。山田さんはポンチョ風に羽織って前をピンで留めていた。確かに今日は少し涼しいとは思っても、さすがにまだストールを使うには早いかなって感じなのに、さっそく使ってくれてたんだ。


「せっかくの山下さんのプレゼントだから、身に着けて二人で出掛けようってことになったんです。そしたら偶然」


と山田さんが言う。そうだったのか。


「喜んでもらえたみたいで、僕も嬉しいよ」


ちょっと照れ臭くて思わず頭を掻いてしまう。そうしたら沙奈子の姿が目に入った。何となく拗ねてるみたいな表情をした沙奈子の姿が。ああ、やっぱり目の前にしたらまだヤキモチ妬いちゃう感じかなと思った。すると山田さんが、


「沙奈子ちゃん。ありがとう。これ、沙奈子ちゃんからのプレゼントでもあるんだもんね」


って、僕から受け取った時に言ってたことを改めて言ってくれたのだった。その言葉に沙奈子は何だか複雑な感じの表情をして、


「私もプレゼントしてもらったもん…」


と呟くように言った。それに僕たちはまた驚いて、その場に立ち止まってしまった。僕が沙奈子の為に買ってあげたストールのことを言ってるんだって分かった。


「二人の分と一緒に、沙奈子にも買ってあげたんですよ。そのことだと思います」


僕が補足するように説明すると、二人は何か納得がいったみたいに頷いた。


「そうだよね。山下さんにとっては沙奈子ちゃんが一番大切な人だもんね」


と山田さんが言って、


「私たちも、沙奈子ちゃんと山下さんのことが好きなんだよ」


と伊藤さんが言った。


伊藤さんも山田さんも、沙奈子が二人に対してささやかな対抗心を燃やしてるんだってことに気付いてくれたんだと思った。だから、僕にとっては沙奈子が一番なんだってことをフォローしてくれたんだって感じた。


二人の言葉を聞いた彼女が僕を見上げてたから、僕も言ったんだ。


「そうだよ。僕は沙奈子のことが一番好きだ」


二人の前ではっきりとそう言った。二人もそれに頷いてくれた。すると沙奈子はすごく嬉しそうな顔をして、僕にぎゅーっと抱きついてきたのだった。自分がこんなにも大切に思われてるんだってことを実感してくれたんだって思った。その様子を見て、伊藤さんと山田さんがまたちょっと涙ぐんでた。


それから再び歩き出した時、僕はふと気が付いた。


「そう言えば二人はどこか行くところがあるんじゃないのかな?」


そうだよ。なんだか当たり前みたいに一緒に歩いてたけど、二人は二人で目的があって来たんじゃないのかな。と思った僕に、伊藤さんが応えた。


「別に何も決めてなかったんですよ。二人で出掛けて後は適当にってことで。だから迷惑じゃなかったらこのままご一緒させてもらえたらな~、なんて思ってたりするんですけど、ダメですか?」


いや、僕は全然かまわない。むしろその方が楽しいかもしれない。ただ、今から行くのは洋裁専門店で、しかも沙奈子がどう言うか…。と思って沙奈子を見たら、ぜんぜん嫌がってる感じじゃなかった。それどころか『いいよ』って感じで頷いてくれた。それを見て僕は嬉しくなった。沙奈子も伊藤さんと山田さんのことを認めてくれたんだなって思った。伊藤さんと山田さんが彼女のことを認めてくれてるのが伝わったから、彼女も二人を認めてもいいっていう気になってくれたのかもしれない。だから僕は言った。


「今日はこれから、洋裁専門店に二人で行くところだったんだ。二人さえ良かったら一緒に来てくれてもいいよ」


その言葉に、山田さんが反応した。


「え?。山下さん、洋裁に興味あるんですか?」


って聞かれて慌てて、


「いやいや、僕じゃなくて沙奈子がね」


って訂正した。すると伊藤さんも、


「沙奈子ちゃん、洋裁に興味あるんだ?」


と感心したみたいに沙奈子を見ながら声を上げた。そしたらまた、沙奈子が頷いた。気楽にしゃべるところまではまだ行かなくても、ちゃんと受け答えはしてくれてる。すごい進歩だって思った。


「私も少しくらいなら洋裁するんですよ。だから私も行ってみたいです」


山田さんがそう言ってくれたからこのまま四人で洋裁専門店へ行くことが本決まりになった。


そこからまたしばらく歩くと、目的の洋裁専門店の前に来た。店先にはたくさんの糸とか毛糸とかがびっしりと並べられていて、それだけでも圧巻だった。見ると、沙奈子と山田さんが同じように目をキラキラさせてそれを眺めてた。


中に入ってもそこはすごいの一言だった。僕には何が何だか分からないものが所狭しと並べられてて、正直言って気圧されていた。伊藤さんも、どちらかと言えば僕に近い印象を受けてるようだった。そんな僕と伊藤さんとは対照的に、沙奈子と山田さんはすっかり意気投合したみたいに一緒にあちこちを見て回ってた。


その様子は、若いお母さんと娘、と言うにはやっぱり年齢が近いかなって感じだから歳の離れた姉妹って言った方がいいのかな。ほんの少し前まではまさかこんなことになるなんて、想像もしてなかった。


沙奈子と山田さんはどんどん奥に入って行って、一階を一通り見て回ったらそのまま二階へと階段を上って行った。僕と伊藤さんもそれを追って二階に上がる。二階にもまた、たくさんの商品が溢れていた。気付いたら、沙奈子と山田さんは何かいろいろと手にしていた。しかも二人で普通に会話してる。その様子に僕は呆気にとられてた。


「なんだかすっかり仲良しになったみたいですね」


不意に伊藤さんにそう声を掛けられて、僕は我に返った気がした。


「確かに。まるで本当の姉妹みたいです」


でもまだどこか上の空な感じで応えた僕に、伊藤さんが言った。


「今度は私がちょっとヤキモチ妬いちゃいそうです」


え?。それってどういう意味?。って思ってる僕には構わず、沙奈子と山田さんは会計を済まして三階へと上がっていった。あれ?。僕お金渡してないぞ? 山田さんが出してくれたのか?


そのせいで伊藤さんが言ってたことが頭から消えてしまった僕は慌てて二人の後を追った。


三階は、これぞ洋裁の極致ってことなのかな。いろんなドレスがまたびっしりと並べられていたのだった。ドレスだけじゃなくて、アニメのキャラクターが着てそうな服も結構あった。さすがにここで買うものは無かったみたいだけど、沙奈子と山田さんはここでもキラキラとした目でそれらを見詰めていたのだった。


ただその二人とは若干違う感じで、今度は伊藤さんも何か興奮した様子だった。その視線の先にあったのは、アニメのキャラクターが着てそうな服だった。


…ええ?。伊藤さんって、もしかしてそっち系の人?。


僕はもう、驚くことばかりで一杯一杯になっていたのだった。


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