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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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百七 沙奈子編 「家族」

針と糸で作った人形のワンピースが一応完成して、沙奈子はまたそれに着替えさせてみていた。形は昨日のとほとんど一緒でも、今日のはTシャツの柄を上手く利用してるから印象がぜんぜん違った。形そのものも、昨日のよりは整ってる気もする。


感心して見入ってしまってたけど、ふと見ると時間はもう11時を大きく過ぎていた。これはマズい。早く寝なくちゃ。


布団を敷いてトイレに行って、沙奈子と、沙奈子の人形と並んで寝る。こういうのも川の字って言えるんだろうか。なんてことを思いつつ、今日一日のことを思い返した。


夢のことは、ゆっくり思い返すとまだ少し不安になる。どこか、今、こうしているのが実は夢なんじゃないかって思ってしまったりはする。だけどこうも考えた。沙奈子の僕に対する態度が演技かどうか関係ないなら、どっちが夢かなんてのも関係ないってことでいいんじゃないかな。寝たきりなのに幽霊みたいに動き回れる僕がいるんなら、そっちでも僕にできることをすればいい。なんてことを思ってみた。何ができるか分からないけどさ。


もちろんこっちはこっちで頑張る。明日はとにかく沙奈子の服作りに必要な道具を買いまくろう。そしてこの子の特技を伸ばしてあげよう。


そうだ。夢の中でも現実でも、その時その時で僕にできることをやって沙奈子を守っていければいい。それでいいじゃないか。そんな風に考えると、すごく気持ちが楽になった気がした。


僕の胸に顔をうずめて静かに寝息を立てるこの子を見てると、素直にそう思えてくる。やっぱりすごいなあ。不思議だなあ。守りたい人がいるってのは、こういうことなんだなあ。


そうして沙奈子についてのことが落ち着くと、今度は伊藤さんと山田さんのことが頭に浮かんできた。あのストールは喜んでもらえただろうか。僕からもらったものなら何でも嬉しいって言ってくれてても、実用一点張りのスーパーで買った化繊のストールだもんなあ。せめてカシミヤとか奮発するべきだったかな。なんてことが頭をよぎる。いやいや、僕にとって大切なのはあくまで沙奈子。そんな見栄を張ってどうするんだ。とも思う。それに二人なら分かってくれるよ。きっと。たぶん…。


普通に恋愛してる人とかでも、こんな風に考えたりするのかな。僕のは全然恋愛とかじゃないって感じだけどさ。


ただ、ちょっと思った。別に、恋愛感情とかなくたって、親しくしたっていいよな。お互いに力を合わせて支え合って生きていくっていうのもアリなんじゃないかな。そうだよ。別に一緒に住んでなくたって、結婚とかいう形じゃなくたって、気が合う人間同士で助け合って生きていってもいいんじゃないかって気がする。


だって、元々血の繋がった家族だって独立したりして離れて暮らすことはあるよな。その上で、助け合ったりしてる人だっているよな。それと同じだって考えてみたらどうだろう。


そう思った瞬間、僕は気付いてしまった気がした。そうだ、僕が伊藤さんと山田さんに対して感じてたことって、友達って言うより兄妹に近い気がする。自分の娘を放って逃げ回る実の兄より、伊藤さんと山田さんの方がよっぽど兄妹って言うか、家族に近いんじゃないかな。僕はもしかしたら無意識のうちにそういう風に二人を見てたから、恋愛対象みたいに思えなかったんじゃないかな。


うわあ…。我ながらものすごく納得できてしまった…。


他人には全く理解できない考え方だと思う。いわゆる常識ってもので考えたらすごく外れてる気がする。だけど僕にとってはピッタリハマる感じなんだ。あの二人は離れて暮らしてるしっかりした妹で、頼りない兄が一人で娘を育ててるのを助けてくれてる。うはは、そのまま過ぎる…。しっかりイメージできてしまう。違和感なさ過ぎる。


そうだ。これで行こう。伊藤さんと山田さんにも、ちゃんと僕がそんな風に二人のことを思ってるって伝えよう。僕と付き合いたいとか思ってくれてるんなら、僕はそういう風に見ることができてないってはっきり言っておこう。変な期待をさせちゃ悪いもんな。


そう言えば二人も言ってた気がする。自分が結婚するとかイメージが湧かないみたいなことを。そうだよな。別に無理に恋愛とか結婚とかに結び付ける必要はないんだよ。ただ僕たちは何となく気が合って、ものの考え方が近くて、価値観も近くて、変に我慢して相手に合わせる必要が無くて、本音だってぶっちゃけられるっていうだけで、何もそれを恋人とか結婚とかって考えで縛る必要ないんだよ。


今はもう、結婚とか必ずしなきゃいけない世の中じゃなくなってるんだし、恋愛とか興味持てない人だっているって言うし、そっちに話を持っていかないことの何が問題なんだ。


僕が守りたいのは沙奈子だけど、伊藤さんと山田さんのことだって、無理なく僕にできることなら力になりたいっていう気持ちはある。付き合いたいとか結婚したいとかって気持ちは全然ないのに、そういう気持ちは確かにあるんだ。それ、自分の妹とかが相手だったとしたら、逆に自然な気持ちだよな。


うん、そうだよ。血が繋がってても家族とは思えない家族がいる一方で、血が繋がってなくても家族って言える関係だってあるじゃないか。だいたい、結婚だって血が繋がってない相手と家族になるって事だろう?。養子を迎えてちゃんと親子になる人だっているじゃないか。だったらそういう形で兄妹みたいな家族になるのがあってもおかしくないんじゃないかな。


僕が長兄で、伊藤さんと山田さんが妹で、沙奈子は僕の娘か…。


なんてことだ。僕の中ではしっくりきすぎて怖いくらいだ。って言うかむしろ、理想の家族像過ぎる。僕は昔からこういう家族に憧れてたって言われても違和感がない。


男女は恋愛するのが当たり前、結婚するのが当たり前っていう時代だったら、こんなこと思い付かなかったしむしろ異常って思ってたかもしれない。なのに今の社会だと変じゃない気がする。少なくとも僕にとってはそうだ。


伊藤さんと山田さんのことを沙奈子にどう言えばいいのか、これで決まったな。二人は沙奈子にとっては叔母さん…は申し訳ないか。お姉さんみたいなものってことで。友達って言ったら何だか恋愛関係をごまかしてるみたいな印象もある気がするから、そっちで行こう。


シングルの父親に恋人ができた時に子供に紹介する時に『お姉さんみたいに思ったらいいよ』とかいうのも定番の言い訳かも知れないけどさ。ただ何か、僕がもし子供の立場だったら、友達って言われるよりはお姉さんみたいに思えばいいって言われる方がまだ親近感が持てそうな感じはある。それが沙奈子に当てはまるとは限らなくても、何故かそっちの方がいいっていう妙な安心感がある。


それはやっぱり、沙奈子と僕が似てるからなのかなあとか思ったりしたのだった。


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