【田中】一体犯人は誰なんだっ!?
「…やはり、犯人は貴方だったのですね、田中さん」
突然扉が開かれ、暗闇だった客間に廊下からシャンデリアの光が差し込んできた。ちょうど肘掛け椅子で微睡んでいた私は、あまりの眩しさに思わず目を細めた。逆光の中、声の主がそのまま扉の前で立ちふさがりこちらを見ている。一体誰だ、こんな時間に…。
「田中さん。誤魔化さないで正直に答えて下さい。貴方がこの館のご主人、佐藤平八郎を殺害した真犯人ですね?」
「何だって…?」
顔をしかめながら、改めて開いた扉の前に立つ人物を眺めた。未だ顔を見せない何者かが、まるで推理小説の探偵気取りで私に問いかけてくる。「真犯人」だなんて、いかにもなフレーズを使うそいつの態度に、私は思わずカチンときた。
「一体何を言ってるんだ?お前は誰だ?失礼じゃないか、こんな夜遅くに…」
「警察の発表では、平八郎さんは自殺になっています。実際、彼が死んだ時、彼の部屋には鍵がかかっていた…」
「おい、いい加減にしないか」
「でもそんなものは、後付けのトリックでどうにでもなるのです。ええ、例えば、鍵のかかった扉と丸ごと付け替えたとか」
「馬鹿な…」
私は思わず苦笑した。トリックだと?こいつ、現実と妄想の区別はついているのか?大体、鍵のかかった同じ模様の扉を用意して、誰にも気づかれずに犯行後付け替えるだなんて…どれだけ大変な作業だったと思っているんだ。トリックなんてチャチなもんじゃない、私のはもっと計算され尽くした、崇高な計画だ。
「さて、問題は誰がやったのか、です。実は平八郎さんは生前、かかりつけの外科医から余命数年だと宣言されていました。それから半年後に奥さんを亡くしてから、彼は弁護士の立会いの元遺書を作らせ、『自分の遺産は一人娘の杏、長年私に仕えてきた使用人の山崎、それから再婚した後妻に譲る』と遺言を残しました」
「待ってくれ。じゃあ何か、平八郎さんは遺産目当てで殺されたとでも?だったらその三人が真っ先に疑われるべきなんじゃないか!?」
「いいえ、田中さん。貴方が犯人です」
私の言葉を、探偵が即座に否定した。私は内心首をひねった。
何故、ただの客人である私が犯人だと分かったのだろうか。佐藤平八郎の殺害を依頼されたのは、偶然再会した幼馴染みの山崎からだった。殺人の報酬として、遺産の三分の一を山崎が受け取り、さらにその半分を私が頂く予定だった。普段から全く僕らと接点のない君なら、警察も疑わないだろう…山崎はそう言って笑った。実際、私もそう思っていた。私の計画も、完璧だったはずだ。
なのに、何故。
しばらく扉で佇んでいた「自称名探偵」が、やがてゆっくりと客間に足を踏み入れてきた。だんだんと光に慣れてきた私の目が、近づいてくる探偵の顔を捉える。こいつは…この女は…まさか。
「山崎…?」
「ええ、こんばんは。佐藤家に長年使用人として勤め、数年前に平八郎から養子縁組と再婚の話を頂き、今は外科医と弁護士と探偵をやってます、山崎杏と申します」
私は目を丸くした。暗がりの中、シャンデリアの光を背に微笑む女性が幼馴染だと知った時、私の心臓はすでに刃物で突き刺されていた。




