靴下と廊下のハーモニー
ー3時間目ー
[社会]
「いまさらなんだけどさ」
「なんですか?」
「実は勉強する内容は、時間割で決まってる教科に関することなら何でもいいって言われてるんだよね」
「つまり算数なら、ひたすら足し算をするのもアリってことですね?」ニッコ-
出ました! 満面の笑み!
この無邪気な笑顔をされて厳しい言葉をかけられる人間がいるだろうか?
そんな人がいたら、どうせクズかニートである。
「んなわけあるかボケェ!!」
「こいつ……ときめかないだと……ロリコンじゃない……だと……」
「大人なめんなよ。
ほれ、社会を始めんぞ」
世の中(社会)は無慈悲なことを知らしめてあげたのだった。
「社会なんだけどね。
まずは地理をやろうかなって」
「いきなり渋いですね」
「俺、留学してたことあるからその話をしようかなぁって」
「そうなんですか! ただのニートだと思ってたんですけど外国産ニートだったんですね!」
「俺には『外国産』の基準がわからんわ。
んで、俺が行ってた国はイタリアなんだけど、個人的な話がほとんどだから気軽に聞いてね」
「ちょっといくつか質問いいですか?
量産型ニートさんはなんでイタリアに留学したんですか?」
「んー、強いて言うなら現状に飽きて刺激を求めたってところかなぁ。
それと俺はザクじゃねぇ!!」
「モロッコ産ニートさんは、なんでイタリアを選んだんですか?」
「イタリア人の国民性が気に入ったからかなぁ。
それと俺はタコじゃねぇ!!」
「スペイン産ニートさんは日本とイタリアどっちが好きですか?」
「断然、イタリアが好きだよ。
それと俺はオリーブオイルじゃねぇ!!
しかもオリーブオイル生産の2位はイタリアでスペインに負けてるとこがまた、くやしい!!!!」
「熱い男ですね。
それと、テキトーに知ってる国を言っただけなのに色々と勉強になりました」
「俺で遊ばないでくれ、ノリやすい体質なんだ……」
「はい、今後とも遊ばせてもらいます」
「こいつ……」
3時間目は自分の留学してたイタリアについて話そうとしていたが、あまりに雑談をし過ぎてしまったせいでまったく出来なかった。
次の社会の授業に持ち越しということになったのだった。
ー4時間目ー
[体育]
「待ってました、体育!」
ノリノリの真央ちゃんは、ノリノリでウキウキでワクワクで着替えを始めた。
俺の目の前でーー
「ちょっ!? 待て待て待て!!!!
なにがノリノリでウキウキでワクワクだよ!? 俺いるぞ!!」
「えっ、ロリコンじゃないんでしょぉ?
じゃあ問題ないじゃないですかぁ?」
語尾を伸ばすところがウザい。
ていうかこいつ小2からひきこもってるから更衣室で着替えるって発想がないのか?
いや、パジャマから着替える時に俺を部屋から出させている。
そしてその時に中に体操着を来たのか! それしか考えられない!
「わわわわわかった。
おおおれはろろろろロリコンじゃないからななな」
「傷がついてるCDみたいな喋り方ですねぇ」
真央ちゃんは喋りながら着ていた長袖のTシャツを脱いだ。
そして俺の読み通り、真央ちゃんは中に下着を着ていた!?!??? ファッ!?
「体操着、中に着てるんちゃうんかぁっ!?!?」
「だってベッドの上に体操着置いてあるじゃないですかぁ」
まだ語尾を伸ばすかこの野郎
そして白い下着は少し透けていた。
大事なモノが透けていた。
しかし俺は、なぜか冷静さを取り戻し、心が安らいでいた。
ピンク色には興奮を抑える作用と聞いたことがある。
賢者になった気分だ。
「透けてますけれども、まだ眺めててよろしいでしょうか?」
「えっ!?
うぉ、えっと、す、すいません調子に乗りました、これはそういう柄ですごめんなさい柄なんです許してください」
真っ白な肌着にピンク色の模様が2つ
まだブラジャーを付けていないのであろう。
ピンク色は日本人には少ない色である。
とても鮮やかな幼き桃色であった。
「柄なんだね、すごくオシャレで前衛的だね」
いつもより声が低くなる。
俺の美しい重低音の声が一つの部屋でこだまする。
時刻は午前11時20分、外ではトラックのクラクションとカラスのさえずりがマッチしてとても心地よい音色を奏でている。
「俺はトイレへ行ってくるということにしてここから出ていくよ
see you baby……」
俺は華麗に部屋を飛び出した。
しかし俺の履いている靴下は廊下との摩擦を減らし、勢いよく部屋から出た俺は、その靴下と廊下のハーモニーにより、すっ転んだ。
「もうあいつの会社の靴下は買わねぇ」
これを人は風評被害と呼ぶ。