仕事と削岩機
俺は困惑した。
「えっ? マジで!?」
「はい、マジです」
「そんなの聞いてないから何もネタがないよ…」
「お母さんも変わり者ですからね」
「どうしようか……」
悩んでいた。
それは何故かと言うと、教える時間割に問題がある。
1時間目:算数
2時間目:国語
3時間目:社会
4時間目:体育
5時間目:総合
6時間目:総合
おおよそ2つの問題がある。
タイイクゥゥゥゥとソウゴオォォォオオオオオ!!!!のやり方がわからないのである。
まだタイイクゥゥゥゥは、なんとかなりそうだが、ソウゴオォォォオオオオオ!!!!に関しては何をすればいいのかさっぱりである。
「うーん、まぁ、いま考えても仕方ないか。
とりあえず3時間目の授業が終わるまでに考えておくよ」
「期待しときます」
「そういうのプレッシャーになるタイプだからやめてほしいなぁ……」
「わぁー楽しみだなぁ(棒)」
少女は果てしなく満面な笑みを浮かべながら棒読みをしている。
「やめろ、その満面の笑みをやめろ」
結構、悪ノリするタイプなんだなぁ。
少し楽しくなってきたが、このままではオチがつかないので無理矢理切り替えよう。
「じゃあ始めますか!
あ、そういえば君のことなんて呼べばいいかな?」
「なんでもいいですよ。
知ってるとおもいますけど『浅間 真央』っていいます」
「じゃあ、真央ちゃんって呼ばせてもらおうかな」
「……」
(『真央』だけの方がいいんだけどなぁ)
「よし!じゃあ国語やろうか!」
ー1時間目ー
[国語]
「えーっと、聞きにくいんだけど、どのくらいで勉強は止まってるのかな?」
「あぁ、ひきこもりだしたのは小2の3学期からですよ」
「そうなのか……
でも真央ちゃんの国語力って明らかに同学年の子以上だと思うんだけどなぁ」
「まぁ、子供より大人とよく話してるんで。
学校にいたら子供とばかり話すじゃないですか。
だからたぶん真央の方が大人びてるんだと思いますよ」
「あー、納得はいくかも……」
(自分のこと『真央』って呼ぶのか…………これは……)
「ちゃんと小学5年生の国語、数学、理科、社会のドリルはここにあるので」
座っていた勉強机の引き出しを開けて、俺に見せるように参考書を取り出す。
しかし、参考書をドリルと呼ぶところがまだ子供っぽい感じがしてくる。
「参考書のことドリルって呼ぶところ、ちょっと可愛いかも」
「え、あっと、いやいや、この参考書にドリルって書いてあるんですもん」
『小学5年生の徹底ワーク』と書かれている……
「そうだね、ワークとドリルは3文字違いで、よく似てるもんね」
「……」
赤面して黙ってしまった。
やはりまだ子供らしくて、可愛いところがあるな。
「気にしない気にしない。
別に教練、練習、復習などを意味するドリルって言葉を使っても全然問題ないって」
「やめてくださいぃ
真央の知らない知識を出して、自分はまだまだ子供だ、ってことを再認識させるのはやめてくださいぃ」
「そういうつもりで言ったわけじゃなかったんだけどなぁ……」
1時間目は、国語の『ドリル』をやらせてみた。
見事に全問正解を叩き出したが、真央ちゃんは最後まで浮かない顔をしていた。
ー2時間目ー
[算数]
「国語は満点だったけど算数はどう? やっぱり得意?」
「えーっと、算数はちょっと……」
「まぁ、ドリルの目標点くらいはできるでしょ」
「ドリルって言うのは、もうやめてくださいぃ」
よし! これから参考書のことはドリルと呼び続けよう!
算数の『ドリル』をやらせてみた。
しかし、真央ちゃんは予想に反して全くと言っていいほど問題を解けなかった。
「WOW!!」
「だから算数はダメなんですって……
数学は小2のレベルで止まってるんです。
それになんか、今日は恥をかいてばっかりです……」
「気にしない気にしない。
ほら、30点も取れてるじゃん!
……あ、これ500点満点だ……」
「やめてくださいぃ
タカミネさんのフォローは心に刺さりますぅ
もうやめてくださいぃ」
「ごめん、これは切実にごめん」
2時間目は算数の、どの辺りから分からないのかを確認して終わった。
かけ算の7の段でつまずいているようだった。
そして終始、泣きそうな顔をしていた。
ー休憩時間ー
「おつかれー」
「精神的に疲れました」
「気にすんなよ。
子供は子供らしい方がいいよ。
大人は無理してでも大人らしくしなきゃいけないんだからさ」
「……めずらしく悪くないフォローですね」
「『めずらしく』って言うのやめてくれ、俺が傷ついてしまう」
2時間共に勉強をしてみたが、なかなか面白かった。
真央ちゃんは予想していたよりも子供で少し安心した。
というかホッコリした。
この感じは1年ぶりくらいだろうか。
楽しかったあの日々を思い出してしまう。