未知で変な人
「この家か……」
外観からするに二階建てであろう。
その家は俺がこれから仕事をする場である。
親友の武から紹介された仕事は、仕事と呼ぶには大それたものであり、どちらかといえば、お手伝いに近いと思う。
ブロック塀に囲まれたその家は若干の庭があり、そこには犬小屋が建っている。
その中にはふてぶてしく、中型犬が酔い潰れたおっさんのように寝ていた。
犬小屋にはネームプレートがついていた。
「『バンビーノ』……赤ちゃん?
それにしてもイタリア語とはいいセンスしてるな」
ーーーガチャッ
いきなり玄関の扉が開いた。
「うおっ!」
驚きで声が漏れてしまった。
「あのー、君は高峰くんですか?」
25歳くらいの女性がドアの内側から声をかけてきた。
「は、はい。
俺は高峰と申しあげます」
少しテンパってしまい、おかしな言い回しをしてしまった。
「はー、よかった。
未知で変な人が庭に入ってきたと思ったわ」
それは『未知で』は解決されたが、『変な人』というのは今現在も未解決なのではないだろうか……
「いやぁ、すみません。
ちょっと庭の犬が気になってしまって」
変な人扱いをされたことと、変な言い回しをしてしまったことで口がにやけながらもそう言い返した。
「カワイイでしょ!
うちの『バンビーノ』」
「は、はい
寝てる姿がなんとも可愛らしいです」
「カワイイ番犬でしょ?
まったく吠えない、いい子なのよ」
それは番犬の意味があるのだろうか
その後、吠えない番犬の話は20分程、展開された。
「あ、あのもうそろそろあがらせてもらってもいいですか?」
「あら、ごめんなさい。
まだ肌寒いのに外で長話しちゃって
とりあえずあがって!」
「はい」
家にあがるとほのかに甘い香りが広がっていた。
人工的な匂いではないような匂いで、人の匂いという感じがする。
それも『人工的な匂い』というのかもしれないが
「じゃあ、うちの子ヨロシクお願いね。
あの子の部屋は2階の1番奥だから」
「は、はい。
わかりました」
「私はもう仕事に行かなきゃ行けないから
あと、このお菓子あげる」
仕事に行かなきゃ行けないのに犬の話を20分もしていたなんてマイペースな人なんだなぁ。
ちなみにもらったお菓子はホワイ〇ロリータである。
このお菓子のロリータは決して、少女を指すロリータとは別の意味であることは、覚えておいていただきたい。
俺はもらったお菓子の白いロリをくわえながら、2階の1番奥の部屋へと向かう。
いよいよこれから対面する。
仕事相手と……
どんな強者なのだろうか。
いや、むしろとんでもない弱者なのかもしれない。
その子は小学生5年生で、ひきこもりである。
『ひきこもり』それは自分にとって案外、未知な領域である。
そっとドアに手をかける。
ーーーガチャ
そこに少女は居た。
しかし、これは意外だった。
予想外だ……
なんと彼女はベッドで眠っていたのである。
俺はロリコンではないが、これは…………少し可愛いかも……
どうしよう、これ、どうしよう。
俺は部屋に入ったのはいいが、眠っている少女の扱い方がわからない。
いや、こんな言い方をしたら俺が少女をなにかしらに扱うような言い方じゃないか。
俺は少女など扱わない! 紳士なのだから!
とりあえず、布団がはだけているからかけ直してあげよう。
そーっと、そーっと
ーーいやぁ、人って驚くと声が出ないものなんですね。
少女は俺が布団をかけ直そうと布団に手にかけたタイミングで目を覚ました。
俺は驚いて声が出なかったのでとりあえずニコッと笑っておいた。
そして少女は口を開く。
「ぅおっ、うおぉ……」
「いやいや、普通「キャーッ」とかでしょ」
つい反射的に少女のうめき声にツッコミをいれてしまった。
「いやいや、あなたこそ、そこは「ぐへへwww起こしちゃったねwww」でしょ」
なんだこいつ……
「俺をなんだと思ってるんだよ……」
「未知で変な人」
「それ、君のお姉さんにも言われたわ……」
「いや、姉なんていませんが?
たぶんそれお母さんです」
「ファッ!?」
「私はお母さんと二人暮らしですもん
それと早くどいてくれません?
起き上がれないんですけど……」
「あ、ごめんなさい。」
そっと掴んでいた布団を離した。
それにしても渋い性格な少女である。
でもよく見るとなかなか……いや、なんでもない。
ボーッと考えていると不意に少女に声をかけられ、少しビクッとする。
「あれですよね? 家庭教師のタカミネさんですよね?」
「あ、うん、そうそう」
「よろしくお願いしますね。
それと……
着替えるので出て行ってもらえますか?」
「あ、はい! りょうかい!」
思っていたより、普通な……
いや、思っていた方向とは違う変人かもしれない。
小学生にしては、変な落ち着き方をしていてなかなかに未知であった。
家庭教師としてちゃんと教えることができるのか不安である。
でも案外、気が合いそうだと思うのであった。