【番外】とある医学生の逃亡
4年前、挫折をした。
これまでにないほどの大きな挫折を。
俺は逃げ出してしまった。
約束を破って。
目標も捨てて。
生き甲斐も無くして。
親友は、独りよがりだと言う。
俺は、アイツを見るだけで震えが止まらないんだ。
目を閉じても顔が浮かんでくるんだ。
優しい笑顔なのに、とても恐ろしいんだ。
そう言った。
「お前は、求められている以上の働きをしないと気が済まない質なんだよな」
そう言われた。
『お前は、お前が思っている以上に求められていない』と言っているように感じた。
そして、俺は
「実は…………俺、少し日本を離れようと思ってる」
「…………」
「……逃げたいんだ」
「……大学はどうするんだ?」
「辞めたよ」
「そうか……」
そして彼は飛び立つ。
彼を空港まで見送りに行った。
例の彼女と。
「どーよ!
いつも見下ろされてるからね!」
彼は普段、決して合うことのない彼女との目線が合った。
彼は彼女の得意げな顔を見て涙を堪えながら背を向け歩き出した。
「日本に帰ってきたら真っ先に連絡入れるからな!
待ってろよ!おうぎ!」
彼は精一杯、強がった。
彼女は最後まで彼の大きな挫折、
負の感情には気が付かなかった。