帰国子女
わたくし、高峰 広志はアマチュアニートである。
そしてプロフェッショナル帰国子女である。
なので自己紹介をする際に、ニートは不要で、帰国子女のみを使用することとなっております。
今日はそんな帰国子女のわたくしが親友の藤田 武くんとバッティングセンターに来ているのです。
「おい、広志、
喋り方が気持ち悪いぞ」
「まて、武、
お前はなんで俺の心の声が聞こえてるんだ」
「ん? なんか言ったか?」
「逆に実際の声は聞こえないのか……」
「冗談だよ。
それよりお前も打ってこいよ」
そうだった。
バッティングセンターに来ていたのだった。
武は20球中18球打ち、その内の2球がホームランの的の数十センチという所まで届いている。
ここでわたくしの負けず嫌いがアップを始めたようです。
ヘルメットを装着し、財布から300円を取り出す。
300円を機械に流れるように入れた瞬間に武が大きな声で話しかけてきた。
「広志がホームラン出せたら、いい仕事紹介してやるよー!!」
靴下の会社に務めている武がなにかを言っているようだが、よく聞こえなかったことにしておこう。
110㌔の球はこちらの心の準備など待ってくれない。
ド真ん中にまっすぐ、まるで真横に落ちているようにボールが飛んでくる。
「うぉぉりゃああああ!!!!」
美しい空振りである。
武が女だったら惚れているであろう。
「広志ヘタクソだなぁww」
「るっせぇぇ」
まだ1球空振っただけだ。
よゆうよゆう
2発目の球が発射される。
「そいやああああ!!!!」
球は美しい軌道を描いて…………
後ろのネットへ突っ込んでいった。
「こりゃダメだな。
ニートだもんなぁ」
煽られている。
靴下に煽られている。
しかし俺のメンタルはやられない。
俺は現在、バットを持っている、これでアイツをいつでもボコボコにできるのだ。
つまり今、俺はアイツより優位に立っているのだ。
全然、心は痛くない。
この涙は靴下なんかの会社に就職したアイツを哀れんでいる涙だ。
2球連続空振りで泣いていた俺は無事に12球連続空振りを成し遂げ、号泣を果たしていた。
「おーい、大丈夫かー?」
「う、う、うるせぇ、く、靴下なんかに…うぅぅ……」
「次の球が来るぞー」
球は無慈悲にも飛んでくる。
しかし俺は閃いた。
打つ方法を……あの球を打てる方法を!!
「球来たぞ、広志!」
「見切った!!!!」
「あ、あの構えは!?」
俺は腰を低めに構え、バットのボールが命中するであろう当たりに手を添える。
「そうだ! 武!! しかと目に焼き付けろ!! 足を包む布よ!!(要約:くつした)」
俺は見事にバットにボールを当てた。
ていうか、ボールがバットに当たりに来た。
「広志……バッティングセンターでバントしてんじゃねぇよ……」
うん、満足!!
当たって爽快!!
しかし当たったボールはすぐ足元へと落下した。
足元に落下したボールを拾おうと、しゃがみこむ。
そしてここで無慈悲なボール発射!!
見事に命中!!
頭に
「いってぇぇぇぇ」
ヘルメットをしていなかったらと考えるとぞっとする。
「おい、頭大丈夫か?」
「いててて……どういう意味でだ?」
「2つの意味で」
「でしょうね……」
冗談を言っているがかなり痛い。
少し休憩するために武に交代してもらった。
武は難なく2球3球と打ち抜いていく。
そして4球目でホームランの的をすれすれの所で外す。
「おっしいんだよなぁ」
惜しいのはこっちだよ。
センスも仕事もバッティングマシンに貢いだ300円ですらも惜しいよ。
結局この後、ホームランが出ることはなく終わった。
「広志、頭大丈夫か?」
「2つの意味ででしょ?」
「あぁ、大丈夫そうだな。
それにしても今日は災難だったから、さっき言ってた仕事の話をしてやるよ」
「正直あんまり期待してないけど聞かせてもらうよ」
「まぁ、バイトみたいなもんだけど割りのいい仕事だと思うぜ――」
この話を聞いたことによって俺の人生は大きく動き出した。
時給2000円
週5日
1日6時間
休み時間2時間
昼飯付き
バイトにしてはとても魅力的なこの仕事は、俺の人生を彩ることになるなんてこの時は思いもしなかった。