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生きる伝説

本日のキャストは

作者: 藍佳印

そうして始まる、エセ魔王侵略劇の続編的なモノ。

 魔王の宣戦布告から半年が経過した。だが、皆何事もなかったかのように過ごしていた。


 「おやっさん!こっちに肉!」

 「あいよ」


 いつも通りの村の光景。突如、村の真ん中にあった巨大ラクリマが光を帯びたかと思えば村全体に声が響き渡る。


 『あー、マイクテスマイクテス。えー、きちんとこちらの声が響く事を願いましてお知らせがございます』


 村の者は声が聞こえたとたん待ってましたとばかりに店をしまい始める。旅の者もごく当たり前のように代金を払いその村を後にする。


 『本日は魔王なんちゃって世界制服の場所にこちらが選ばれております。村の皆さまは貴重品をきちんと管理し、えー出来ればご自分で持っていただけると助かります。このご時世で盗難されてもこちらで責任を負いかねますので。戸締りを確認し、ご自分の家の前にて待機してください。そちらに派遣されております魔法使いどもが結界をきちんと張ったのを確認したのち、所定の場所へと避難してください。なお旅人の方は勝手に非難をしてください。酒場で飲んでいた方は代金を忘れずに。犯罪ですので、もし発覚したのちには地の果てまで我々が追って差し上げますのでご安心を。また、本日のキャストの方は村の真ん中、ちょうどこのラクリマがあるところにお集まりください。最終確認をいたします。裏方担当の方は村の方々が避難終わり次第に準備を始めてください。なお、こっそり見てみたいとか思い残るのは結構ですが巻き込まれてポックリ逝ってしまってもこちらでは責任を負いませんのでご注意を』


 酒場で酒を飲んでいた一人の青年もこの放送を聞き歩き始める。彼の名はユアス・バーテン。竜人族であり本日のキャストの一人である。緑色の髪に赤い瞳。旅装束の格好をした彼は本日のキャストの一人であり面倒事に巻き込まれた一人でもある。


 (面倒だな)


 なお、彼の役は旅をしている一風変わった竜人族であり、血の匂い――竜人族は鼻がよい――の香りを追ってくれば村が魔王軍によって蹂躙されており一人かけつけ魔王軍と戦っている。という、正義のヒーローっぽい設定である。


 『えー、聖剣に選ばれた勇者ことコリス・ホームシック。平民出、身長189センチ、体重……まぁどうでもいい情報なのでカット。外見、紫色の髪に金色の瞳。髪は短く服装は傭兵っぽいですね。顔はまぁソコソコいいんじゃないでしょうか。概要、顔が良いからか調子に乗り思い込みが激しい性格の様で』


 遠慮なく愚痴愚痴言うラクリマの声の持ち主は、コウヤ・ヒロキ。七十年ほど前にこちらの世界に落ちてきた異世界人である。今の魔王に拾われ世話になっている所為か迷惑の元凶であるモノ達の紹介の声がかたい。


 『次に、勇者一行メンバーを。フローラ姫に恋をしているにもかかわらず既婚者を夫の眼の前で口説き激しいスキンシップを行い世界を破滅に導こうとした馬鹿――失礼、大変頭の仲がお花畑思考であり、二人の女性に恋をしているというリディア・アーメスト・コウディン。コウディン王国の第二王子。王子でありながら忌々しい。金髪碧眼。顔だけは王子っぽいです。戦い方は魔法剣です。身長体重その他カット。言う価値なしで』


 一見面白おかしく紹介しているように聞こえるが本人はいたって真面目な紹介である。


 『ムウ・シュート。銀髪碧眼。顔はイケメンです。チャライ。とりあえずチャライ。第二王子の親友ってことでお察しください。戦い方は白魔法使い。ようは防御しかできない方です。体重身長その他カットで』


 こう声が聞こえている間にも裏方担当の方々は死体――無論良く似せて作った偽物――を置き遠慮なく剣や魔法で残酷に痛みつける。家をぶち壊し――結界を張ってあるので結界を解けばもと通りであるから安心してぶち壊せるのである――日頃の怨みと言わんばかりになんでもやる。輸血した血――だけでは足りないので動物などを解体したときに出た血なども含める――を上手くばらまく。さすがに、偽装した死体からは血が出ないので上手くやる。これぞプロの仕事である。


 『ヒメカ・アゲイン。淡い水色の髪に紺色の瞳。顔、外見は姫。性格はブサイク。白魔法、特に治癒が特化しています』


 だんだん荒くなる紹介も誰も気にすることなく、それどころかうんうんと頷くモノまで出る始末。


 『最後にハルカ・デューハ。ご存知の方が多いかもしれませんが、この方は真面目です。被害者です。お馬鹿な――失礼、大変ご自分に素直で思考回路が可愛らしい方々の監視を行っていただいているキャストの一人でございます。戦い方は黒魔法使い。黒魔法とはご存知の通り攻撃特化した魔法の総称であります。ですが、本来魔法使いというのは後衛職ですが、この方は接近戦までこなす万能選手でございます。本当にこちら側の役でないことが残念な方です』


 ちなみに外見は黒髪黒眼の黒ローブである。


 「んじゃ、最終確認するっぞ」


 そういったのは魔王軍の副将の役をやるゲイン・フッシュゲル。魔族であり筋肉質の身体――見た目は脳筋に見えるが意外と頭脳労働を得意とする――をラクリマに傾け瞳を閉じる。


 ここにいるキャストは全員が事情を知っており頭を抱えている人物だ。表向きの事情では、勇者一行の更生――無論監視役のハルカは除く――の為の大演技とされているが実際の事情は少々いや、かなり変わってくる。

 五千年前に魔王を消滅させた勇者一行を怒らせているのである。勇者一行の物語りは多々あるが彼等は生きている。厳密にいえば皆が皆、不老になっているのである。

 前々から色々やらかしてくださったモノ達だがアスカ・コーリス・コウディンを怒らせてことで状況が変わった。名前を見て分かると思うが彼は王族である。五千年ほど前の。無論、今の王も知っているし時期国王の第一王子も知っている。これは王から王へと口頭で――ときには王じゃない場合もある――伝えられている。絶対にご先祖様を怒らせてはいけない。ご先祖様に見放される馬鹿な事をやってはいけないと。


 無論、今回のキャストは多くが魔大陸にすんでいる者達であるから国王から聞いたわけではない。彼らは自分達の祖父――あるいは親戚に話を聞いたのである。


 一番怒らせてはならないのはアスカ・コーリス・コウディンである。彼が怒ったら仲間は諌めるどころか味方に回るだろう――誰しも自分の身が可愛い――し、彼は頭の回転が速く正論しか言わない。――つまりは怒らせたらアウトである。これが頭が良いだけならまだしも実行力や実力もあるからたまったもんではない。ここだけの話、アスカ一人で魔王を消滅させたと。


 今の魔王の家系は当時、側近であり胃薬を手放せなかったとされる宰相の家系である為に昔の魔王の血はすでに途絶えている。彼らは絶対に子孫が馬鹿をしないようにと自分の口から語るだけでなく記憶を伝承している者が多い。ゆえに、怒らせたと聞いたとき全ての魔大陸にいる真実を知る当主らは「ああ、終わったな」と思っていたのである。


 だからこそ、その子供であるこが案件を持って来た時は賛成の声を真っ先に挙げた。そんなことで怒りを避けられ――なおかつ、ストレス発散にはもってこいだと。一番迷惑を被ったのは、そのキャストに選ばれた者達である。


 「んじゃ、始めるか」


 皆が皆、勇者一行の顔を思い浮かべやるべきことを繰り返し口ずさむ。まるで、歌でも歌うかのように。ただ、一つだけ言えたことは彼らも相当のストレスを溜めていたという事だけだ。


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