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第一話

それは強い光だった。

生きとし生けるもの、否、世界の全てを包み込む大いなる光。

遠く遠く、遥か彼方へと続く広い大空にあっても、その輝きは霞むことがない。

例えその姿が隠れて見えていなかったとしても、彼の光は留まることなく輝き続けていた。

その光は世界に生命を与えた。

その温かな光の恩恵により、大地に生きる者たちは息をすることを可能にした。

その光は世界に活力を与えた。

その輝きはありとあらゆる闇を照らし、生きる者たちの道標となった。

その偉大さを誰が疑うだろうか。何物もその存在に変わることは出来ない。

彼の光は時に崇められ、時に畏怖されながら、その輝きを増していった。

――その光の名は「太陽」。

この世界に生きる全ての者たちが一度は彼の光に向かい、その手を伸ばす。

それはその光が余りにも眩しかったから。大きかったから。尊かったから。

あまりにも絶対的な存在。忘れることなど出来るはずもない。

だというのに。いつからかヒトはその存在を忘れてしまっていた。


この世界から「太陽」が消えて、数年の月日が流れた。

今なお誰もが空を見上げては、その闇の深さに絶望する。

誰もがこの現実を直視することが出来なかった。祈りだす者すら現れ出した。

だが、この暗く閉ざされた世界に何を祈るというのか。闇に光を願っても、お門違いもいいところだ。

それでも、人は祈ることしか出来ないのだろう。

ただひたすらに。どうか、この世界に光を、と。


じりりりりりりりりりりりりりり。

耳に障る音で、強制的にまどろみの中から現実に戻される。

時刻は七時。

本来ならこんな時間に起きずにもっと惰眠を貪っていたいところだが、あいにくと今日は平日。

一応、俺、上森社(かみもりやしろ)は学生なので学校へ行く準備をしなければならない。

「少し、寒いな」

もう四月も半ばになる。そろそろ春の暖かな陽気が辺りを包んでも良い頃なのだが。

俺は締め切っていた部屋のカーテンを勢いよく開け放った。

青く青く、ひたすらに澄み渡った青空をこの目に映したいと思ったのだ。

「…ま、そんなもん、期待しちゃいなかったけどさ」

空は当然のように暗闇に支配されていた。

その悲しいくらいに黒く染まった空を見て、俺は溜息をつくことさえしなかった。

もうとっくに分かっていたことだ。澄み切った青空、なんてものはいまや絵画の中だけの存在になってしまっている。空にはもう一筋の光さえ見ることが出来ない。

「……」

俺は無言で身支度を整え、朝食を済ませるために自分の部屋を後にした。


「いってきます」

いつも通りの変わらないあいさつとともに玄関を開け、外に出る。

俺は学校までバスで通っているので、とりあえずはここからバス停を目指す、わけなのだが。

何やら家の門のあたりに見知った少女の顔を見つけてしまった。

「おっはよう、社君」

俺の姿を見つけると彼女はそのいかにも能天気な表情をさらに能天気オーラ全開にして、あいさつをしてきた。彼女の名は橘灯(たちばなあかり)。昔から近所に住んでいて、小、中、高校と同じ学校、同じクラスという異常な腐れ縁を持ったいわゆる幼馴染だ。…朝から暗いことを考えていたからだろうか。いつも通りの彼女の緩みきったその表情を見て、心なしか安堵してしまった。我ながらあまりにも情けない…。不覚だった…。よし、仕返しをしよう。

「あっれー、おっかしいなあ。なんか、声が聞こえた気がするんだけど…。空耳だよな」

「朝から何をボケてるのさ」

「さて。嫌だけど学校向かうかー」

「こらあああ!わたしを無視するなあああ!」

朝から元気な奴だ。まあ放っておいて、先に行こう。

「ちょっと、社君!いくらなんでも…ひどいよ…」

あ、なんかすごく涙声。…さすがにいきなりガン無視はひどすぎたか?

「じょ、冗談だって、灯。おはようさん」

俺は改めて灯のほうに向き直る。と、同時に額の辺りに軽い衝撃を受けた。いや、衝撃というにはあまりにも柔らかすぎる。事態を確認すると、どうやら彼女の指が俺の額を弾いたらしい。まあ、いわゆるデコピンという奴だ。…初めて知った。威力がないデコピンってこんなに反応しづらいものなんだ…。

だが、当の彼女はさっきの一撃で随分と満足したみたいで。

「どうだ、まいったか!わたしだって反撃の一つや二つ、ビシバシやっちゃうんだからね!」

なんて息巻いているわけなのだが。…まあ、うん効いたよ。だから俺も仕返しだ。

「う、ぐ、ぐああああああああああああ!」

いきなり悶絶し出し、いかにもB級アクション映画でありそうな感じで見事に倒れこむ俺。我ながらなかなかの名演技だと思う。

「え、ちょ、社君!?さっきのそんなに痛かった?」

どんな武術の達人だ、お前は。デコピン一発で人を倒せるか、ゲームじゃあるまいし。

すごく突っ込みたいが我慢だ。さて、次の台詞は、と。

「…俺は…もう、駄目みたいだ…」

「やだなあ、社君。そんな冗談には引っかからないよ」

俺はちょっと重病人みたいに咳込んでみた。

「っ!?社君!?」

「…今まで色々と…ごめんな…灯」

「そんな、社君…死んじゃ嫌だよ、社君!」

そうして。俺は目を閉じた。

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