霧が濃い夜の森で―
太陽が沈み夜の霧の世界はさらに不気味さを増す。
「できた」
オンボロの宿屋の中は真っ暗だった、灯りの代わりになるものもまったく残ってないからだ。その少し暗い中で作っていたのを再開した樺凛だったが、どうやら完成したようだ。
「・・・なんだよそれ」
少し眠そうな目をして聞いてきた雷に教える。
「これはあの神社にあった『光』の残り粒をすり合わせた符、これで唱える時、楽になるわけ」
「それって・・・時間がかからないって事か?」
「うん、そんな感じかな・・私、ちょっと行きたい場所があるから雷は待ってて」
樺凛は立ち上がり横かけ鞄をかけて出かける準備をする。勿論、完成した符も忘れずに鞄に仕舞う。
「おう、無理すんなよ〜」
「あたりまえよ」
二人は、普段交わしているのか、そんな会話をし、宿屋から出て行く。
樺凛が行く場所は決まっていた。
さっき鬼がいた森・・・森の中は夜と霧がかかっているという事もあり不気味な景色が一向に増した。夜の暗さは言葉で表現するのも難しく本当に木に手を触れながら歩かないとつまづくのではないかと思ってしまう。
「もう、この近くには居ないのね・・・・」
呟くと手で空中に何かを書き始める。書いたそれは白い煙状になり、ふと何処かへ飛んでいってしまった。
白いモノは符術の一環で偵察や探求などに使用する、探したいものを念じながら符に言葉をかけて空へ離す――ただそれだけ、戻ってきた時に身体の何処かに溶け込ませる(何処でもいいが樺凛の場合は手の平)
樺凛は立ち止まり、飛ばした白いのが帰ってくるのを待っている。
あまり時間は経っていない、数分ですぐに白いのが帰ってきて樺凛が手を出すとスゥッと消えてしまう。
身体に溶け込んだ後、その符が見てきたモノが樺凛の身体や脳裏に流れ込む。
「あっちか・・・村から離れちゃうのね」
少し心配そうにそう呟くと居ると思われる方向へ足を運ぶ
月明かりもうつらない霧の濃い森、進めば進むほど戻れなくなるのではないかと思う。そんな時、奥で丸まっている何かがあるのに樺凛が気がついた。
ゆっくりと近づくと、丸まっている何かも気がつきユックリとだが慌てて向きを樺凛に向ける。
―落ち着いて 私は何もしない―
そこにいるモノに声にならない声を送る。
聞こえたのか、丸まっていたそれは身体を起こし、声にならない声で悲しそうに“音”を出した。それは悲痛に樺凛の『気持ち』に響いた。
叫び声をあげたのは『鬼』だった。
顔を近づけてくる相手に、樺凛は自分の手を鬼の顔に置き優しく撫でて、また声を送った。
―ごめん・・・私じゃ救う事が出来ない―
分かっていたのか、鬼も怒る事もなく静かに樺凛の手に撫でられる。
―待っていても、あなたに気がつく人は誰一人もいない。“あの人”すら、だから・・・もう―
心という声で話していた二人だったが、ピクリと鬼の方が顔を上げた。樺凛も慌てて鬼が見た方向に目線を向ける。と、暗くて見えないが誰かがいるのは分かる。
背格好で何となく分かるった、最近・・・いや、今日であった人物、杜水だった。
杜水は信じられないくらいの、軽蔑した眼差しで樺凛を見据えている。それはまるで、憎む相手を見ているように―――。
樺凛は撫でていた手を下ろし、杜水に目線を向ける。
杜水は瞬きすらしない、鬼より鬼に見えるような形相・・・表情かもしれない。
「なんで、ここにいるの?」
杜水は猟銃を勿論持っている。間違えれば、樺凛も撃たれるかもしれない状況だった。
「お前・・・そいつを退治してくれるんじゃ・・・?」
震える猟銃を持った手と言葉
そんなのはおかまいなしに、樺凛は首を横に2回振った。
「何でだ?そいつは・・・俺の――」
そこまで言った時、鬼が大きく唸った・・・ほら貝のような音だが轟いた。
「!!」
銃を鬼に向ける、だが、前には樺凛がはばかる。
「・・・・丁度いいから、鬼とは何か私が教えてあげましょう」
幼さを残す少女の顔が、少しだが大人びた。
それは、全てを見据えているかのような表情をした・・・杜水は、そんな風に見えた。
何だか知らないうちに、第4部でございます。感想も頂く事も出来嬉しい限りです。しかも、私が「これは失敗か?」と思っている部分の指摘が2通ほど、感想と共に書いて送られてきてます。指摘されるのは嬉しい限りで、今後、どう直そうか考えられますから(納得)
後、ここまで読んでくださった読者様(先生)も分かられると思いますが、私の小説には点が足りません。これが今回の多い指摘でした。直しているつもりですが、多少は許してください。直ってませんでしたら、また教えていただけるとうれしいです。
では、次の話で会いましょう。




