若者と符術
今二人が探しているのは宿屋、樺凛が何を考えているのかは今だに分からない雷
「さっき手をかざしていたのって――」
そう聞こうとしたが樺凛の姿が見当たらない。
「雷!」
斜め横にある民家のような家の上の窓越しで手を振りながらそう呼ぶ樺凛の姿があった。
「ここ、元は宿だったみたい」
雷も荷物を置くと座って足を伸ばす。(聞くのは諦めたらしい)
静かな村の中・・・その村には樺凛と雷しかいない。
大の字に床に寝そべる雷に何かを作っている樺凛・・・・作っていると言っても料理ではない、外を歩くための道具・・っと、言ったところだ。
「なぁ、いつまでいるつもりだよ・・・こんな所、用なんかないだろ?鬼とかも出なさそうだし――」
その時、何かの破裂音がした。音と言っても銃を撃ったときの音、もしかしたら本当に誰かが『何』かを撃ったのかもしれない。
「・・・まだ居たみたいね『人』が・・・」
窓に寄りかかりながら冷静に樺凛が呟いた。
そして、人差し指と中指を口にくっ付けて何かを吹きつけるように呟くと白いモノを空へと飛ばした。それを目で追って見えなくなると窓から離れて廃墟の宿を飛び出す。
それに雷も突いてゆく。
「逃げ遅れた人がいたのかもしれない」
「で、でもあの町、もう“使われていた”形跡が残ってなかっただろ?」
「もしかしたらよ・・・もしかしたら」
そのまま無言で2人は走り続けた。音が聞こえる場所を耳で探しながら・・・すると、樺凛が飛ばした白いモノが戻ってきた。だがあの時と違って白い炎の様な鳥の形をして・・・樺凛は立ち止まり手を伸ばすとその手の中に白いのは降り立ち、すぅっと消えてしまった。
「・・・」
「分かったのか?」
雷は黙り込んでしまった樺凛に声をかける。
「うん、あっち・・・急いだ方がいいかもしれない」
二人は鳴り止まない発砲の音が聞こえる場所へと飛び込んでいった。それは森の中・・・二人があの村に付く前に歩いていた場所だった。
草木をかき分けいると思われる方向に進んでみるとそこには一人の若者と化け物――いいや、鬼がにらみ合って固まっていた。どちらかが余所見をしたらおしまいと言ったような空気を感じる。樺凛と雷もその場に止まると、樺凛の方がそこで猟銃を構える若者に声をかけた。
「落ち着きなさい・・・そんなものじゃ殺す事もおろか傷を負わせる事も出来ない!」
「・・・」
「あんたが戦ってんの、何か分かってんのかよ!」
「・・・」
「こんど発砲したらあなた、首が吹っ飛ぶわよ・・・?言ったでしょ?殺せないって」
「・・・・・・それでも」
「えっ・・・?」
若者の手が少し動いた、撃つ!そう思ったとたん鬼の方も醜い手を物凄い早い速度で若者の顔に振り下ろしてきた。
グォォォ・・・
樺凛は間に入り鬼を食い止めた、振り上げた鬼の手に符をぶつけて力と力が火花を散り鬼の方が火傷を負ったのだ。痛かったのだろうか・・・鬼は少し地にうつ伏せ動かなくなる。
「・・・鬼の癖に、痛みを感じるふりをしやがって―」
若者の発言に樺凛は言った
「それは少し偏見だって私思う・・・・あなたは、ここに『痛がって』転がる鬼を『何だ』と思っているの?」
「意味が分からないな・・・」
鬼はすぐに立ち上がってきた、それに先に気がついたのは樺凛だった。
樺凛は2人に村まで走るよう声をかけるとまた、新たな符を取り出して何やらまた唱え始めた。
そして、その符を鬼の胸に向かってかざすと鬼は電気が走ったかのようにその場に動かなくなった。その時だった。
キィィィィン
耳鳴りがした、それは樺凛だけ頭に響いた。
「えっ・・・あなた――」
ふと後ろから声が聞こえた、雷が呼んでいる・・・・その声に樺凛は我に返る。まだ村に向かってない2人に走りよりながら叫ぶ。
「今のうち、さぁ早く!」
3人は全速力で村に向かって走っていった。
「さっきのって・・・まるで符術士のようだったけど・・・君って?」
ここは、さっきの廃墟とかした村の中、息切れを起こしながら若者は樺凛に質問する。
「・・・あんなものしか出来ないわ」
「符術士なら、あいつ等殺せるだろ?あいつ・・・殺してくれねぇか?俺、そうしないと・・・この場所を離れるに離れられないんだ」
憎しみがこもった顔が樺凛だけでなく雷にも分かった。
ところで、符術士・・・実はこの世界に存在するのは『鬼』だけではないのだ。これらを消滅・・・殺すのを仕事にしているのを符術士と呼ばれる。名前の通り符を使った戦いをする。
だが、どうしても鬼だけは彼ら『符術士』でも殺す事が出来ない存在だった・・・それには、他の理由があるのだがそれは誰もが捨て去ってしまう真実にあるのだ。
若者の頼みを無視して樺凛は息を整え始める、整えると若者の目を見て自己紹介をし始めた。
「私、樺凛・・・私と一緒に旅してもらってる彼が―」
「雷って言うんだ、よろしく!」
若者は納得が出来なさそうな表情をした。
「あなたの村では自己紹介をした相手に紹介しないように言われていたのかしら?」
「・・・杜水だ」
杜水と名乗った男はやはり納得できないと言う顔で自分を紹介をした。
「さっき、あなたは殺して欲しいって言った・・・だけど、私は“違う”気がする、殺してしまっていいの?」
また変な質問を樺凛はぶつけた。
「さっきから君は何を言ってるんだ?殺して欲しい・・・鬼だから殺して欲しいに決まっているだろ?」
「違う・・・そんなはずない・・・だって――」
そこまで言うと口をつぐんだ。そして泊まる場所にしていた廃墟の宿屋に向かって歩き始める。
「杜水・・・あなた鬼が“何”か考えた事あるの?考えた事あるなら・・・少しは」
そう言い残して立ち去った。
慌てて雷も追いかける。
「珍しいな、お前が助けてやろうとしないなんて・・・」
「バカいわないで、私がいつ人助けをしているのよ?」
「してるさ・・・最終的には『憎まれる』けどな・・・」
サッサと歩いていた樺凛は少し歩調が緩んだ。雷もその為、樺凛に追いつけることが出来た。
「明日・・・私、あの森へ行こうと思うの」
突然そんな事を雷に言った。雷は驚く事はあまりなく何でか樺凛に質問をした。
「知りたい事があるのよ・・・もし、それが分かれば殺さずにすむかもしれない」
少し寂しそうな表情で雷に言う、その言葉は自分に言い聞かせるようにも感じた。




