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今週の短編小説「土曜日の落としもの」

五月の土曜日の朝は、銀色の光に満ちている。

カーテンの隙間から差し込む日差しには、透き通った初夏の匂いが混じっていた。


会社員のはるかは今週のご褒美として今朝買ったコンビニで買ったコーヒーを片手に帰路についていた。

ふと思い立っていつもとは違う角を曲がってみることにした。

一週間、締め切りと会議に追われていた自分への小さな冒険のつもりだった。


住宅街の突き当たり、大きなくすのきの木陰に、見たこともない小さな店があった。

古びた木製の看板には、かすれた文字でこう書かれている。


『土曜日の落としもの屋』


不思議に思ってドアを押し開けると、カランと乾いた鈴の音が響いた。店内には、古い鍵、色褪せたリボン、磨かれた小石など、脈絡のないものが整然と並んでいる。


「いらっしゃい。何かお探しかな?」


奥から現れたのは、銀髪を丁寧に整えた、仕立てのいいベストを着た老人だった。


「いえ、通りがかっただけなんです。ここは何を売っているお店なんですか?」


老人は穏やかに微笑んだ。

「ここはね、忙しい平日の間に、人々がうっかり落としてしまった『心のかけら』を預かっている場所なんだよ」


老人はカウンターの下から、小さなガラスの小瓶を取り出した。中には、キラキラと輝く朝露のような液体が入っている。


「これは、君が火曜日の朝に、街路樹の若葉が綺麗だと思おうとして、電話が鳴って忘れてしまった『感動』だ」


次に、琥珀色の小さな石を取り出す。

「これは木曜日の夜、本当はゆっくり読みたかった本の『続きへのワクワク』だね」


遥は驚いて、自分の胸に手を当てた。確かに、この一週間、何かをやり残したような、小さな空白が心にある気がしていた。


「土曜日の朝はね、それらを取り戻すのに一番いい時間なんだ。心に余裕という隙間ができるからね」


老人は預かっていたそれらを、小さな白い紙袋に詰めると、遥に差し出した。

「代金は結構。その代わり、今日の午後、誰かに少しだけ優しくしてあげておくれ」


店を出ると、楠の葉がサラサラと音を立てて揺れた。振り返ると、そこには更地と売地という掲示板があるだけで、店の姿はどこにもなかった。


けれど、遥の手の中には、確かに温かい紙袋の感触があった。


家に戻りコーヒーを一口飲む。すると、不思議なことに、ベランダに咲く名もなき花の色彩が、さっきよりもずっと鮮やかに見えた。


「さて、午後は何をしようかな」


遥は小さく独り言をつぶやいた。心の中が、洗い立てのシーツのように、真っ白で清々しい風で満たされていくのを感じながら。


あなたの今週の「落としもの」も、きっとこの土曜日のどこかで見つかるはずです。


どうぞ、穏やかな休日を。

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