表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

―1―

そよ風の心地よい昼過ぎだった。

私はいつものように、グラスを拭いていた。雫に濡れ輝くグラスは、まるで木漏れ日のように心を穏やかにしてくれる。店内には客がおらず、インストゥルメンタルとコーヒーの匂いが私を包み込んでいた。

私は拭き終わったグラスを棚に置き、そっとカウンターの木目を撫でる。

カランカランと、木製チャイムの軽く乾いた音が聞こえた。

「いらっしゃいませ」

私は明るい声で言いながら顔をあげる。中年くらいだろうか、黒い太ぶちメガネをかけたお客様だった。静かだった店内に、床と触れ合う靴の音が加わる。彼は私に軽くぺこっと挨拶し、カウンター席に座った。木目のカウンターテーブルに置かれていたメニュー表を一通り見たあと、低い声で

「ブラックコーヒーを1つ」

と頼んだ。私はにこりと微笑み、コーヒー豆に触れる。12gきっちり測り、コーヒーミルにいれ引き始める。しばらくすると、コーヒーの香りが店内に漂い始めた。私はこの香りが大好きだ。ドリッパーとペーパーをセットし、先程ひいたコーヒーの粉をいれて表面をならしたあと、ゆっくりとお湯を注いでいく。温めておいたコーヒーカップにドリップしたコーヒーを注ぎ、お客様に提供した

「お待たせいたしました。ブラックコーヒーです。」

彼はコーヒーを口にゆっくり運ぶ。淹れたてで湯気が出ているため、少しメガネが曇っていた。

「ここのお店は、普段何時からやっているんですか」

彼はコーヒーカップを置いたあと、私にそう尋ねた。

「午前8時から午後8時までです」

私がそう答えると、彼はなるほど、というように頷き、再びコーヒーカップに口をつけた。

「美味しいですね、これ。今度妻も連れてきます」

「嬉しいです。ありがとうございます」

私はふわりと笑う。妻と言った時、一瞬お客様の表情がとても柔らかくなったように見えた。

店内にかかっていたBGMに一区切りが付き、新たに違うインストゥルメンタルに変わり出す頃には、お客様のコーヒーカップは空になっていた。

「お会計お願いします」

「480円です。ちょうどお預かりいたします。」

私はなれた手つきでお会計を済ませ、お客様ににっこり微笑む

「ありがとうございました!」

彼はぺこっとしながら、軽い木材チャイムの音を鳴らして帰って行った。

店内は、再びBGMとコーヒーの匂いだけで包まれる。私は大きく伸びをし、目の前の大きな窓を見つめる。生き生きとした緑が風で揺れ、木漏れ日が窓から差し込んでいた。今日はいい日和だ、そんなことを思いながら、ブレイクタイムに備えて仕込みをしようと冷蔵庫を開けた時。牛乳が足りないことに気づき立ち尽くす。

「…急いで買ってこよ」

私は身につけていたエプロンを慌てて脱ぎ、バックを手に取り、ドアを開ける。太陽の光が眩しくて、一瞬目を細める。窓越しに見るのとは全く違う自然の美しさに、何度観ても心を奪われる。ドアにかかっている看板を「OPEN」から「CLOSE」にひっくり返し、少し小走りでお店に向かう。

スカートと髪の毛が風になびく。まるでニヤニヤとからかわれているような気がした。



これは私と、お客様と、お店が共にあゆむ物語。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ