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大好きな恋人に嫌われたい  作者: 海瑠トワ


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8/8

エピローグ

 あれから、季節がひとつ巡った。

 長く続いた冬は嘘のように穏やかで、街を包む空気は柔らかな陽の匂いを纏っている。

 窓を開けると、遠くの鐘の音が響き、心の奥まで春が染み込んでくるようだった。


「おはよう、リゼ」


 背後から聞こえた低い声に振り向くと、白いシャツの袖をまくったアルフレッドが、湯気を立てるカップを二つ持って立っていた。

 あの頃よりも、少しだけ穏やかな顔をしている気がする。


「おはようございます。今日も早いですね」


「ああ。今日は訓練もないし……一緒に朝を過ごしたかった」


 そう言ってカップを差し出される。淡い香りに鼻をくすぐられて微笑むと、彼の視線が柔らかく揺れた。


 あの日から、すれ違いの日々を埋めるように二人で長いこと話し合った。

 アルフレッドは今まで我慢していたことをやめ、私の世話をしたがった。休みの日は常にそばに居て、静かに本を読む私を眺めては、何故か満足そうにしていた。


 私も遠慮することはやめ、思ったことは素直に伝えようと努力している。それでもアルフレッドが察して行動してしまうことの方が多くて、なんだかんだ甘やかされているのだ。


 窓辺に並んで座ると、光が床に伸びて、二人の影がひとつに重なる。

 手を伸ばしてその影を撫でるように触れると、彼の指が上から重なってきた。


「ねぇ、アル」


「ん?」


「これからも、たくさん話をしましょう。嬉しいことも、不安なことも、ちゃんと」


 あの日、言葉が足りなくて傷ついたことを、もう繰り返したくなかった。

 彼もそれを分かっているのか、少し照れたように目を細める。


「ああ。約束する。もう君を泣かせるようなことはしない」


 静かに笑い合う。

 その笑顔の奥に、互いの弱さも、愛しさも、全部含まれている気がして胸が熱くなった。


「……アル」


「なんだ?」


「好きです。たぶん、前よりもずっと」


「そうか。俺も愛している」


 カップを置いて、そっと抱き寄せられる。唇が触れるよりも先に、心臓の音が重なった。

 春の風がカーテンを揺らし、遠くで鳥が鳴く。その穏やかな世界の中で、私はただ、彼の腕の中にいた。

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