第7話 問い詰められて
匂わせ表現ありますm(_ _)m
私を囲うようにしてベッドに乗り上げたアルフレッドは、逃げられない私の行動を観察するように見下ろしている。
暗く濁ったようなブルーグレーの瞳にぞわりと背筋が凍る。
……何故アルフレッドは怒っているのだろう。
「ど、どうしたんですか?」
怖々と訪ねると彼は私の震える手に冷えきった手を重ねる。ベッドのフレームがぎしりと軋んで暗い部屋に響いた。
「何をしていたんだ?」
手の甲を撫でる指は優しいのに何故か冷たい。その場に縫い付けられたかのように動けなくて声が掠れる。
「え?」
「あの男は誰なんだ?」
彼がなぜ気にするのか分からないけど、答えなければいけないと思えた。
「えっと……職場の上司で……」
「何故頭を撫でられていた?」
アルフレッドは何を言っているんだろう?エリオットは兄のような存在だが、流石に頭を撫でられたことなどない。
「撫でられ?な、なにか誤解してませんか?」
問い詰めるような彼に首を傾げれば、一層瞳が細まっていく。
「誤解?あんなに顔を赤くしておいて?」
「えっ!?」
本当に記憶にない。いくら距離が近くとも、エリオットに頬を染めることは絶対にないだろう。ぱちぱちと瞬きをすると、落ち着かせるように彼は息をついた。
「何を話していたんだ?」
「少し相談をしていただけです」
そう答えるとより深くなる瞳の色にびくりと肩が震えた。
「……なぜ」
「へ?」
「なぜ、俺に相談しない?どうして他の男に……っ!」
私の肩を掴んで悲し気に顔を歪める。
「…………どうして、いつも俺を頼ってくれない……?そんなに頼りないか?」
泣きそうな震える声で問いかけるアルフレッドに驚いて咄嗟に声が出てこない。
「なぜ、いつも俺に遠慮するんだ?もっと……」
「わ、私のこと、飽きたんじゃ……?」
何故そんなことを言うのか分からなくて聞き返せば、肩を掴んだ手に力が入るのが分かった。
「そんなことあるわけないだろうっ!?君はいつも可愛くて、俺がどれだけ我慢していたと思っているんだ!」
「へ?……っ!」
真剣な顔で言われて思わず顔が熱くなった。
何かを堪えるような表情に胸が苦しくなって震える手をぎゅっと握る。
「俺ばかりが好きでいたのか……?」
肩を掴んでいた手が力なく落ちていくのを感じて咄嗟にその腕を掴んだ。
「ち、違う!私も大好きです!あ、愛してます……っ!」
彼の言葉が嬉しくて、あふれそうになる涙を押さえて必死に首を振った。信じて欲しくて真っ直ぐに見あげると、落ち込んだような声色で彼は小さく呟く。
「……でも、他の男といたじゃないか」
俯いたアルフレッドの旋毛に元気がなく、正直に言うのを少しだけ躊躇ってしまった。
「あ、あれは……アルに嫌われていると思って……その相談を」
そんなことを考えていたなんて申し訳なくなる。折角好きだと言ってくれたのに、嫌われてしまうかもと思えば怖くて声が小さくなっていく。
「どうしてそう思うんだ」
「だ、だって……外で触れてくれなくなったし、目も合わせてくれないから。それに、不機嫌そうな顔をしてるし」
淡々と問いかけるアルフレッドに俯いてしまえば、そっと頬に手を添えられて、落ち着かせるように撫でられた。
「それはすまない。あれは、その……君があまりにも可愛いから、リゼを見ると触れたくなって。触れてしまうと、もっとと求めてしまう。不機嫌そうな顔は……君が遠慮しているのが嫌だった」
申し訳なさそうに下がった眉に少し動揺して「そう、なんですね」と返せば、するりと頬を撫でられて目を細めた。
「俺は君に遠慮されるのが距離を取られているようで嫌だ。もっと甘えてわがままを言って欲しい。難しいこともあるが、君のわがままならなんでも聞いてあげたい」
アルフレッドの大きな手が温かくて、ドキドキと胸が高鳴っているのに落ち着くから不思議だ。
「……俺は……だいぶ重たい男らしい。君が何をしているか誰といるか気になるし、俺以外の男と一緒にいるなんて、考えただけで吐き気がするほど嫌だ」
初めて聞いた彼の想いに目を見開くと、少し申し訳なさそうな苦笑が降ってくる。
「君の反応が可愛いからずっと見ていたいし触れていたい。本当は一晩中抱き潰して君を動けなくさせて、ずっとここにいて欲しいと思ってる……」
「そ、それは……」
そうなれば少し困るが、嫌ではないから何とも言えない気持ちだ。
「実際にする気は無いが、そう思っている。だから……悪かった」
ふと額に触れた唇に顔が熱くなり、彼の謝罪の言葉に首を傾げた。
「え?何がですか?」
「君に誤解を与える態度をとったことだ。ああでもしないと自分を抑えられなかった……」
確かに彼の態度に傷ついたのは事実だったが、私も最初から話をしていればもっと早く解けた誤解だった。だから、気にしていない。
「あ……えっと、私、アルが好きです」
仲直りがしたくて彼に腕を伸ばして抱擁をねだった。私の望みを理解したのか、アルフレッドは優しく抱き寄せて嬉しそうに微笑んだ。
「ああ、ありがとう。俺もだ」
「うぅ……そ、その……だから、嫌じゃないです」
恥ずかしくなって俯いてしまえば、真意を探るように覗き込まれる。
「アルのしたいようにして……?」
甘えるように見上げるとアルフレッドは抱きしめる腕を緩めて私の背を撫でる。
「っ!……どうなっても知らないぞ?」
「……はい」
アルフレッドの熱い瞳に見つめられて頷くと、優しく口づけが降ってきて「好きだ」と低く囁かれた。いつもよりも優しい手つきに余計緊張して、ただ彼が好きだと再確認しただけの時間は、今までで一番幸せだった。




